怒った顔

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 それでかえって、私はとまどった。自分の抱いた感覚をどう表現したらきちんと伝わるのか。変な意味にとられては嫌だという感情と、そして自分から言いだしておいて矛盾しているが、あのとき感じたきれいさを、自分だけのものにしてとっておきたいという感覚。そう思う自分にまた困惑した。  三奈のことは嫌いではない。むしろ、どちらかというと近しい存在だ。それでも私は、自分の中の宝物を見せようという気にはなれなかった。  ──私は自意識過剰なのかな。どうして、他の人みたいに素直にいろいろなことを人に話せないんだろう。  三奈はすでに、別に声をかけてきた隣の席の生徒と話しはじめていた。  何の話をしているのか分からない。アニメの話のようだ。夢中で話し、おかしくてたまらないような笑い方をする。  そういうクラスメイトたちを見ると、いつも眩しいような、けれどどこか冷めた目になってしまう。  どうして自分はこうなのだろう。  高校の二年間、そういうふうに過ごしてしまったのだから、きっとこの後どこかの小さい会社に就職して、やはり同じように生きていくのだろうか。  自分の身の程はそのくらいだと思いつつも、そういうときは内臓がせり上げるような感覚になる。それは病気でもないし、生理等でもない。いわば、自分が勝手に作りだしている幻想のような感覚なのだった。
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