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 今日子は愛を欲していた。  無条件に己を包み込んで肯定してくれる存在を望んでいたのだろう。  高校を卒業して勤めていた企業を数ヶ月で辞したのも、人間関係が上手く行かなかったからだという。その後オフィス街の喫茶店でウエイトレスをしていた時に、職場が近くよく訪れていた圭亮と知り合った。  人目を引く美人というほどではないが、可愛らしくておとなしい彼女に庇護欲が湧いた。  ……いや、そんな綺麗事ではない。大学を卒業して就職したばかりだった圭亮は、同じ会社に勤める有能な女性陣に気後れしていた。  だからなんの力もない、仕事でもまだ役に立たない自分に尊敬の目を向けてくれる、……「優越感に浸れる」相手といるのが心地よかった。  ──今なら素直に認められる。  しかし今日子は、ただ圭亮を持ち上げていい気にさせるための道具ではない。彼女はおそらく、あの職員の言う通り自分だけを愛し守ってくれる相手を必要としていた。  圭亮にそこまでの余裕がなかったのが別れの理由なのではないか。  つまり、この先共に生きるには足りない、と「見切られた」のだ。
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