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 生まれた子も乳児期も過ぎ、行政からの支えも手薄になっていたのだろう。  学校はともかく、幼稚園や保育園への就園も義務ではない。  実際には、担当者が電話や訪問で繋がりを保とうとしていたようだが、『親』に拒否されては強硬手段は取れない。目に見えた虐待の形跡も見つけられないのだからなおさらだ。  しかし今日子は、現実には娘を一人自宅マンションに放置して外出を繰り返していたらしい。所謂養育放棄(ネグレクト)と判断されたと聞いている。  幼い子どもは親に守られる存在だ。  しかし今日子が望んだのは「自分を守ってくれる『家族』」だった。そして彼女は手が掛かるだけの我が子から逃げるようになったのか。  今日子自身が、歳を重ね親になっても「子ども」のままだったのかもしれない。  最終的には、想像するしかできないが「思い通りにならない現実」から本当の意味での逃避を選んだのだろうか。  服薬自殺を図って命を落とした彼女は、直前に圭亮に手紙を寄越していた。「娘がいるから迎えに来てほしい」と。  別れてから五年以上が経っていた。  突然の連絡に半信半疑で、それでも手紙の住所を訪ねた圭亮を待っていたのは今日子の遺体と、衰弱した娘の真理愛(まりあ)だった。
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