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キヌコさんから、
本当のことを聞かされた東田。
ふと我に返ると、
「あのさ……その、俺の寝室に
入ったんだよね?」
「はい、掃除で……」
「俺の、下着……
その、パンツ洗濯してたよね?」
「はい、干してました」
「パンツの柄知ってるんだよね?」
「はい、ほとんど……というか全部」
「俺の趣味とか、その他もろもろ」
「はい、趣味のものとか、
その他もろもろも片付けたり
してました」
「はぁ~そうだよね……」
と大きな溜息をついて天井を見上げた東田。
「あの~、私、お仕事ですから
大丈夫ですよ」
とキヌコさんが言った。
キヌコさんを見た東田は、
「確かに、
俺、私キヌコ 六十三歳ですって言われても
何にも疑わなかったしな。
だってさ、キヌコさんの作る料理、
物凄く美味しくてさ、
実家の母さんの味に似てたから、
味噌汁の出汁だってうまく取れてるし、
豚汁も最高だし、鮭の焼き加減、
皮のパリパリ感も最高だった。
煮物も、だし巻き卵も本当に美味しいから
まさか、キヌコさんがこんなに若いなんて
思わなかったけど。
とにかく、キヌコさんにはこのまま、
俺の担当続けてほしいな」と言った。
それを聞いたキヌコさん、
「ありがとうございます」
と満面の笑みを浮かべた。
「ところで、俺、忘れ物
取りに帰って来ただけだから、
これから、ライブ会場に戻んなきゃ
いけないから……」
「そうなんですね……」
とキヌコさんが言った。
「ね~、キヌコさん、
俺のこと知らないの?
顔よく見てよ」
キヌコさんは東田の顔を見ると驚いた。
「そう、今頃 気づいたの?」
「あなた……RAINの悠(はる)」
と言った。
東田とは、彼女の親友激押しの
ボーイズグループ『RAIN』のメンバー
悠の本名だった。
声が出せず、激しく動揺するキヌコさんに
東田が近づくと、
「キヌコさん、美味しいご飯と掃除、
これからもよろしくね……」
と言うと優しく微笑んだのであった。
~完~
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