まるで交換日記

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まるで交換日記

月曜日、午後三時。 キヌコさんは東田のマンションを訪れ コンシェルジュの林からカードキーを 受け取ると東田の部屋のドアを開ける。 テーブルの上に置かれたノートを 開くと、 キヌコさんへ 今日もよろしくお願いします。 味噌汁、物凄く美味しかったです。 あと、焼き鮭の焼き加減が最高! 皮がパリパリしていて、見栄えも 良くて、ありがとうございました。 今日は、洗濯機のタイマーを かけて洗ってますので、 浴室に干しておいてください。 それと、食事ですが、 煮物と卵焼きとサラダと ご飯と味噌汁、 お願いします。  東田 と記入されていた。 それを読んだキヌコさんは 「ふ~ん、色々と試したいのね」 と言うと早速調理に取り掛かった。 てきぱきと家事をこなすキヌコさん。 流石、会社のエースのキヌコさん。 負けず嫌いのキヌコさん。 今日も元気なキヌコさん。 ピーピーと洗濯の終了する音が聞こえた。 キヌコさんは、洗われた洗濯物を 浴室に干し始める。 「やっぱり、東田様って、若者なんですね。  このTシャツの派手なこと、下着も……  浴室が色とりどりで派手になって  しまった」と呟いた。 浴室から戻ったキヌコさんは、調理を続けた。 暫くして、「はい、できました!」と 言うと出来上がったおかずにラップをかけ をテーブルに並べると、連絡ノートに記入を して、部屋を後にした。 数時間後、東田が帰宅した。 テーブルの上の厚焼き玉子と煮物を見ると 自然と笑みが浮かんだ。 ノートを開き、キヌコさんが記入した文字に 目を通す。 東田様 お仕事ご苦労様です。 ご要望の洗濯物は浴室に干しています。 調理につきましては、厚焼き玉子、 これは、だし巻きにしています。 煮物は、筑前煮と言って鶏肉と お野菜を煮たものです。 サラダは冷蔵庫の中、 お味噌汁はお鍋に入っております。 あと、お料理のメニューですが、 六十三歳の私ですが、和洋中華 意外と何でも作れますので リクエスト等があったらお願いします。 では、また木曜日にお伺い致します。 東田は、 「ふ~ん、キヌコさん、何でも 作れるんだ。凄っ!」と言うと 美味しそうにキヌコさんの料理を 食べ始めた。 そして、木曜日、キヌコさんが 東田の部屋を訪問しノートを開くと、 そこには料理のリクエストに加え 「キヌコさん、料理旨かったです。  ありがとうございました。  余談ですが、僕 思うんですが  『連絡ノート』ってなんだか   交換日記みたいですね。   つい、昔を思い出しました」  と書いてあった。 キヌコさんは、東田の言葉を読んで 「おお~若いな。モテててたんでしょうね」 と微笑んだ。
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