僕の彼女はロングヘアーでミステリアスでちょっとツンデレ?

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     僕と彼女が親しくなったのは四月の半ば。  きっかけは大学のクラスコンパだった。  高校までと違って大学にはホームルームなどがなく、クラスという単位で活動する機会も少なくなる。  そもそも授業もほとんど選択制だが、必修科目の語学だけはクラスごとにまとめられているようなので、その教室が一緒の連中がクラスメートなのだろう、と認識していた。  今回のクラスコンパも、ドイツ語の授業の教室でたまたま耳にしたから参加できただけ。クラスメートなのにコンパのことを聞かされておらず、出席できなかった者もいるに違いない。  僕は元々、人付き合いが得意なタイプではないのだろう。クラスコンパに出てみても「顔は見たことあるけれど名前は知らない」というクラスメートの方が多いくらいだった。  とりあえず空いている席に座り、最初は近くの連中と適当におしゃべりもしたけれど、しばらくすると一人になっていた。  みんなそれぞれ席を移動して、思い思いの相手と飲み交わしている。僕は自分から動くよりも、みんなの様子を傍観者的に眺めているだけで十分。そう思っていたのだが……。  ボーッと全体を見回していた僕の視線が、一箇所で固定される。部屋の隅に座っている女の子から、目が離せなくなったのだ。  僕みたいに一人で、所在なさげにコップを手にしている。清楚な白いブラウスを着た、長い黒髪の女の子だった。  僕にとっては、彼女も「顔は見たことあるけれど名前は知らない」の一人だ。教室ではいつも窓際の後ろの席で、ぽつんと座っている。誰とも口をきかない彼女の姿が、なんとなく気になっていた。  僕自身を棚に上げて「なぜ彼女はいつも一人なのだろう」と不思議だったのだ。  もしかすると、地味すぎる女の子として、周りから避けられているのだろうか。僕から見れば「地味」どころか「ミステリアスな孤高の少女」というイメージであり、むしろ心惹かれるくらいなのに。  こういうコンパならば、今まで話したことがない人に声をかけても不自然ではないはず。  そう考えると、今日は絶好の機会だ。僕は自分に言い聞かせながら、珍しく積極的に、自分から彼女のところへ向かう。 「やあ。今日も一人? いつもの教室と同じだね」  話しかけた途端、彼女はビクッとした態度を示す。持っていたコップを落としそうになるほどだった。 「私に気づくなんて……」  と小声で呟いているのも聞こえた。一人でいる方が気楽だから、存在感を消していたつもりなのかもしれない。  邪魔したのであれば、悪いことをした。頭ではそう考えながらも、せっかく彼女の隣まで来た以上、もっと話を続けたいという気持ちも強かった。 「素敵だよね、その艶やかなロングヘアー。変に整えていない、自然の美しさって感じで……」  慣れていないので、ついそんな言葉が口から出てしまう。いきなり女性の外見や肉体的特徴を褒めるのは悪手だろうに。  これでは、下手なナンパみたいだ。 「どうも」  彼女は一言発しただけで、僕と目を合わせようとすらしなかった。  その後も色々話しかけてみたけれど、明らかにツンツンした態度だ。少しでも良い反応を示したのは、 「どんな音楽が好き? 僕が好きなのは……」  と、かなり古いミュージシャンの名前を出した時だけ。  そんな次第だったので、お世辞にも「彼女と仲良くなれた」とは思わなかったのだが……。  クラスコンパの二日後。  夕方帰宅する途中、アパート近くの電信柱の影から、のそっと彼女が現れた。 「こんばんは……」 「わっ、びっくりした。どうしたの、こんな場所で……。君の家もこの近くなのかい?」  彼女はゆっくりと首を横に振ってから、僕に対して初めて笑顔を見せた。 「あなたの帰りを待っていたの。あなたの部屋、行ってもいい?」  部屋にあげた途端、彼女は僕に甘えて抱きついてくる。クラスコンパの時のツンツンした態度からは想像できない姿だった。  これが彼女のデレた状態なのだろう。ならば、いわゆるツンデレというやつかもしれない。  女の子に抱きつかれるのは初めての経験であり、当然のように嬉しかったが、一つだけ残念な点もあった。  人肌の温かさが全く感じられない。彼女は幽霊だったのだ。  後で確認してみると、十年以上昔の入学者名簿に彼女の名前があった。  体が弱かった彼女は入学直後に亡くなり、それが未練で成仏できないのだという。 「せっかく受かった第一志望の大学だもの。単位はもらえなくても、授業だけは出席したくて……」  テストの答案もレポートも提出できないから、二年生には進級できない。それで毎年、一年生の授業を受け続けていたそうだ。 「そんなに律儀に考えなくてもいいのに……」  僕は呆れてしまうと同時に、彼女の真面目さにますます心惹かれる。 「ほら、一年の授業だって、履修登録せず勝手に受けてるだけだよね? だったら勝手に二年の授業受けても同じじゃないかな?」  僕の提案に対して「それは盲点だった」という顔をしながら、彼女はこくりと頷いた。 「じゃあ、一年生は今年で終わりにするね……」  来年以降も、彼女と僕はずっと一緒だ。  これからもよろしく。 (「僕の彼女はロングヘアーでミステリアスでちょっとツンデレ?」完)    
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