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夏休みに突入して、部屋のベットの上、あたしはもう何度目か分からないため息をついていた。
ふと、あの時落ちてきたてるてる坊主を思い出して通学カバンの中を探る。
教科書に挟まれて少し潰れてしまっているのを見て、昨日帰ってきてからカバンを投げつける様にして置いてしまったことを思い出す。
「……ごめん、てるてる」
顔の丸みを整えながら、何の罪もない潰れたてるてる坊主に謝った。
首元を整えていると、結ばれた水色のリボンの下、何やら紙が挟まっていることに気が付いた。
そっと、四つ折りにしてあるそれを開いてみる。
〝好きだ〟
え!?
飛び込んできたのは、たった三文字。
だけど、インパクトのあり過ぎる三文字。
見上げた屋上にいたのは同じクラスの男子だった。挨拶はするけれど、一度も話したことはない。それに、目が合えば殺されるとまで噂されていて、誰も寄りつかないくらいの不良。あくまで噂だけど、昨日睨まれた時、確かに殺気を感じた。
……でも、待ってよ?
これがもし、あの大友くんの物だとして、拾ったのがあたしだってこと、バレてるよね?
あの時、ハッキリと目が合ってしまった。
もしかしたら、これを探しているかもしれない。あたしが持っているってバレてるよね?
ああ、なんであたし、こんなの持ち帰ってきてしまったんだぁ。
あのまま拾わずに置いてくればよかったんだ。しかも、これ、誰かに渡すつもりだったってこと、だよね……。そんな大事な物を持ってきてしまって、なんだか申し訳ない。
いつも一人でいるイメージの大友くん。そんな人でも、誰かを好きになるんだ。
てるてる坊主に想いを込めるなんて、怖いイメージと全然かけ離れている。てるてる坊主の表情もニコニコしているし、なんだか、少しだけ可愛い、なんて思ってしまう。
リボンにまた紙をはさみこもうとするけれど、なかなか上手くいかない。諦めてペンケースの中に手紙をしまって、てるてる坊主のリボンを結んだ。
大友くんは確か、部活はやっていなかった気がする。だから、たぶん夏休み中は学校には来ない……はず。
とりあえず大友くんの机の中に、これは返しておこう。
気分転換も兼ねて、あたしは着替えて学校へと向かった。
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