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2、怖いクラスメイト
サッカー部員達の声が校庭に響く。練習試合の真っ最中だ。あの中に、きっと青空くんもいるはず。
去年の夏休み、友達と一緒に応援しに行ったな。あの時も、思い切って「頑張って」って声をかけたら、笑顔を向けてくれたのに。
ため息を吐き出して、あたしはなるべく校庭の方を見ない様に校舎内へと急いだ。
静かな校舎。外の気温から一変して、ひんやりと日陰の空気が気持ちいい。
教室は誰もいなくてホッとする。
持ってきたてるてる坊主をカバンから取り出して、また形を整えた。
キョロキョロと大友くんの席を探す。
えっと、たしか大友くんは背が高いから後ろの席だった気がする。
廊下側、机の中身を確認して、あたしは教科書に書かれた、大友雷という名前を見つけて心の中で安堵した。
「それ、返して」
しゃがみ込んで机の中を覗くあたしの背後、低くて重たい声が聞こえた。
「ぎゃあああああっ!!」
ガッターンっと、机ごとひっくり返ってしまったあたしは、振り返ってそこにいた人の姿に目を見開いた。
「お、お、おお……」
怖くてなかなか名前が出てこない。
だって、あたしをまっすぐに睨んでいるから。悪いことしてるわけじゃないのに、あたしはただ、てるてる坊主を返しにきただけなのに。まるで、追い詰めて来た凶悪犯みたいな目で睨んでくる大友くんに、本当に殺されるんじゃないかと思って、涙が湧き上がってくる。
「え、何泣いてんの? どっか痛くしたのか?」
しゃがみ込んで、あたしの目の前に手を差し伸べてくれる大友くんは、やっぱりまだ怖いけど、かけてくれる言葉は優しい。
そっとその手につかまって、起き上がった。
「驚かせてごめん。それ、探してたんだよ」
「あ……ううん、あたしの方こそ、大袈裟に驚いちゃって……ごめんなさい……はい、これ」
手にしていたてるてる坊主を、大友くんに渡した。
「なんも見てないよな?」
ギロリと睨まれて、やっぱり怖くて身が縮む。
「見、見て……見てないです。なにも」
怖くて大友くんのことすら見れない。あの手紙を見たなんて言ったら最後。海にガチガチに固められて沈んでいく自分を想像した。
「……ない」
てるてる坊主を手に取ると、大友くんが首の辺りを探っている。
ああ、アレのことだよね。
あたしもすっかり忘れていた。ペンケースの中にいれっぱなしのアレ。〝好きだ〟と書かれた、紙。
「……もっかい探すか」
ため息を吐き出した大友くんは、小さく呟いて教室を出て行ってしまった。
あたしはようやく解放された恐怖からへたり込んでしまって、しばらく動けずにいた。
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