紡と日向

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紡と日向

「ねぇ、日向くん」 帰り道、私は彼氏の朝倉日向くんに声を掛けた。 「なんだ?」 日向くんは無表情で聞いてくる。 「私たち、付き合って一年だよね?」 「あぁ」 無愛想に言う彼にちょっとムッとする。 日向って名前の割にキミ暗いよね。 「一年も付き合ってるのに、何もないよね。 日向くん。ホントに私のこと好きなの?」 私は頬を膨らませる。 私たちは付き合ってから 一度も恋人らしいことをしたことがない。 「好きだよ」 歩きながら言う彼。 「どのくらい?」 「世界一」 ムッ。 彼女に対してちょっと冷たすぎやしませんか。 日向くんは本当に私のことを好きなのかな。 不安を覚える。 「じゃあ何で手を出してくれないの? 一応彼女だよ、私」 そのとき、ザーっと雨が降ってきた。 「雨だ」 彼は冷静に傘を取り出して開く。 私も傘を開いた。 都合の悪いことは無視ですか。 むくれていると、突然唇に温かいものが触れる。 えっ。 日向くんの唇だった。 「俺、(つむぎ)が初めての彼女なんだ」 「うん」 「だから、手を出していいか分からなかった。 手、出していいの?」 日向くん、顔が近い! 彼の頰は赤らんでいる。 それに釣られて、私も顔が熱くなった。 そして、コクリと頷く。 雨が降る中、私たちの唇が重なり合った。 あぁ、雨よ降れ。 道ゆく人々から私たちの姿が見えないように。 この世界に二人きりだと錯覚できるように。 私は幸せな気持ちでそう願った。 〈終わり〉
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