Episode5 正体

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Episode5 正体

「柳瀬。聞いてる?」 「…………………………」 「疲れてるなら、今日は解散にしよう」 「………………」 「俺。会計済ませて来るから、少し休んでて」 「…………!」 (あっ、僕。全然話聞いてなかった。何の話してたんだっけ?)  知り合ってからだいぶ経った。  今日は初めて、放課後ではなく日曜日に、バイト終わりの佐々と落ち合って夕飯を食べている。  せっかくだからと、六時に現地集合で焼肉屋へ。  いつもの如く向かい合って座り、あらゆる肉を制覇した。 (箸休めにチョコアイス食べたとこまでは覚えてるんだけど)  僕は知らず知らずの内に、ボーッとしてしまっていたらしい。 (待って、そう言えばいま、会計って佐々!)  立ち上がり、キョロキョロと佐々を探す。  出入り口のすぐそばで、女性店員さんと談笑する佐々を視界に捕らえる。  遠くから見る横顔も、白シャツに黒のゆったりカーディガンを羽織った立ち姿も、見惚れるほどにかっこいい。 (僕がもし女子なら……ってあれ??)  佐々と話すお姉さんは、モデルさんみたいに可愛い人だ。  それなのに。  いま僕は、佐々を見付けてもなお、お姉さんではなく、佐々ばかり見てた。 (これって雛鳥とかによくある、アレなのかな?)  雛鳥は、初めて餌をくれた人を、自分の親だと思い込む習性がある。  その習性はかなり強烈で、一度そう信じたら、決して後ろを離れることはない。 (助けてもらって、僕。佐々に懐いてる?)  良いヒトだ。  優しく大らかで、喋れないことを、僕自身にほとんど感じさせないぐらい、自然体で接してくれる。  かと言って、変な気遣いも感じない。
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