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すぐそばまで行ったところで、佐々の手が僕の頭に乗る。
「無理しなくていいんだぞ?」
(うん……。優しいなぁ)
あたたかい。
触れた部分も、それ以外も。
佐々といると、まるで何かに包み込まれているような、そんな感覚に陥る時がある。
『大丈夫だよ。明日学校で自分の分払うね』
「いや、いいよ。俺が柳瀬と食いたかっただけだから」
『悪いよ。そんなの』
「ならこの後。もうちょっとだけ付き合ってくれるか?」
「…………」
コックンと小さく頷く僕の頭を、撫でるようにして触れた佐々の手が、離れて行こうとして、左手でギュッと掴む。
慌ててパッと離したら、
「なんで離すんだよ?寂しいじゃんか」
佐々の悲しげな目がそっと伏せられた。
(どうしてそんな目するんだよ)
それだけじゃない。
衝動的に伸びた自分の手へ、目線を遣る。
(触れたいって……離さないでって、僕いま思ったんだ)
胸焼けの正体に、脳内で明確な名前が付く。
【恋煩い】
いつからなんて解らない。
でもきっと。助けてもらったその日からだ。
だって僕はあの日から、毎日佐々のことを考えて、毎日佐々と話したいって思ってる。
声なんて、生まれた時から出せやしないのに。
前を行く。佐々のカーディガンの裾を、ちょこんと摘む。
「今日は満足行くまでちゃんと食えた?」
気にしていてくれたんだ。あのファミレスでの出来事を。
(……って、えっ?じゃあ、今日の夕飯って)
『僕のファミレスリベンジのためじゃないよね??』
「いや。俺が来たかっただけだけど?」
首裏を掻きながら、あっさり答えた佐々から、ふわりと石鹸の香りが舞う。
お互いの肩が一瞬触れた。真隣で信号が変わるのを待つ。
(どうしよう。手、繋ぎたい)
さっき触れ合った手が、まだ熱を保っている。
(尋ねるべき?でもなんて?)
一歩間違えば変態扱いだ。ただでさえ僕は、訂正するための道具を、一つ持っていないというのに。
「公園にさ。寄りたいんだ」
「……………………」
ゆっくりと呟かれた。台詞めいた言葉。
それだって、佐々が発するだけで特別なものに思えた。
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