Episode5 正体

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 すぐそばまで行ったところで、佐々の手が僕の頭に乗る。 「無理しなくていいんだぞ?」 (うん……。優しいなぁ)  あたたかい。  触れた部分も、それ以外も。  佐々といると、まるで何かに包み込まれているような、そんな感覚に陥る時がある。 『大丈夫だよ。明日学校で自分の分払うね』 「いや、いいよ。俺が柳瀬と食いたかっただけだから」 『悪いよ。そんなの』 「ならこの後。もうちょっとだけ付き合ってくれるか?」  「…………」  コックンと小さく頷く僕の頭を、撫でるようにして触れた佐々の手が、離れて行こうとして、左手でギュッと掴む。  慌ててパッと離したら、 「なんで離すんだよ?寂しいじゃんか」  佐々の悲しげな目がそっと伏せられた。 (どうしてそんな目するんだよ)  それだけじゃない。  衝動的に伸びた自分の手へ、目線を遣る。 (触れたいって……離さないでって、僕いま思ったんだ)  胸焼けの正体に、脳内で明確な名前が付く。 【恋煩い】  いつからなんて解らない。  でもきっと。助けてもらったその日からだ。  だって僕はあの日から、毎日佐々のことを考えて、毎日佐々と話したいって思ってる。  声なんて、生まれた時から出せやしないのに。  前を行く。佐々のカーディガンの裾を、ちょこんと摘む。 「今日は満足行くまでちゃんと食えた?」  気にしていてくれたんだ。あのファミレスでの出来事を。 (……って、えっ?じゃあ、今日の夕飯って) 『僕のファミレスリベンジのためじゃないよね??』 「いや。俺が来たかっただけだけど?」  首裏を掻きながら、あっさり答えた佐々から、ふわりと石鹸の香りが舞う。  お互いの肩が一瞬触れた。真隣で信号が変わるのを待つ。 (どうしよう。手、繋ぎたい)  さっき触れ合った手が、まだ熱を保っている。 (尋ねるべき?でもなんて?)  一歩間違えば変態扱いだ。ただでさえ僕は、訂正するための道具を、一つ持っていないというのに。 「公園にさ。寄りたいんだ」 「……………………」  ゆっくりと呟かれた。台詞めいた言葉。  それだって、佐々が発するだけで特別なものに思えた。
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