Episode7 距離

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 公演が終わり立ち上がる。 (あれ?パンフレットどこやったっけ?)  うっとりとしていたせいだろう。  手に持っていたはずの物がない。 (落としたのかな?)  キョロキョロと辺りを見回して、椅子の上に置いた小振りな鞄の中を探す。 「秋。どうした?」  鞄から手を離し、スマホの電源を起ち上げる。  一度電源を落としたスマホは、起動まで中々に時間がかかる。 (嫌だな、この()) 「……ゆっくりでいい。溶ける物なら急ぐけど」 (本当に佐々ってば)  口元で小さく笑った佐々が、 「冗談なんだから、笑ってくれ」 と呟いた。  クラシックコンサートに、溶ける物持って来るバカがどこにいるの?  なんて、そんなことはどうでも良くて。  笑わせて、僕が嫌がる間をさり気なく埋めてくれるスマートさに胸を打たれる。 「ほーら、点いたぞ?」  そう言って摘まれた僕の右頬が、軽く伸びた。 『摘まないでよ~』 「秋が笑ってくれないのが悪い。にしても、よく伸びるな」  一体何に感心しているのやら。 『パンフレットがない』  「そっちを先に言え」  もう一方の頬も摘まれる。      チラチラと周囲の視線が僕らへ集まる。 『探すから離して』  簡潔に入力し、横へ一歩距離を取った。  「俺は俺のだって、自慢したいのになー」 「?!」  人が()け始めたホールに響く、やや大きな声。 (止めてよ。佐々!)  片手を前へ倒して、睨み付ける。 「もう公演は終わったろ?」 (そういう話じゃないんだってば!)  パーの手で、佐々の背中を叩いた。 「距離を置かれた俺の気持ちは?」 「!……」 「何しても傷付かないってわけじゃねーの。しっかし、この短時間でよく失くして……ってこれじゃね?」  椅子の隙間から、床へと落ちたパンフレットをヒラヒラ揺らす佐々。 (解ってる。傷付けたんだ。僕の行動が)  見られたら恥ずかしい。  そう思った。  佐々は声が出せない僕といて、これまで半年。  一度だって、そんな素振りすらしなかったのに。  どこへ行っても店員さんに、積極的に声をかけてくれたし、いつだって堂々としてくれていた。 「泣き顔は二人きりの時だけにしないと、抱き締めるけど?」 「っ!……」  泣きそうになっている。  その自覚はあったけれど、改めて指摘され顔が熱くなった。 「その可愛い顔で許すから、もう距離は取ろうとすんな。な?」  まだ顔が熱くはあったけれど。     大きく一つ頷いて、僕はにっこり笑って見せた。
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