Episode9 真相

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Episode9 真相

 その日の放課後。僕たちは例の公園に寄った。  佐々のお気に入りの景色が、夕焼け色に染まっている。 「告白以来だな」  いつ聴いても安心する声に同意する。 「中等部にいた頃のこと。言わないとってずっと思ってたから、ありがとな」  別れの挨拶を告げる子供たちを、目線で見送って佐々が言った。  空いたばかりのブランコへ腰を下ろす。  一度ゆっくりと瞼を閉じた後。  佐々は過去を想起するようにして、話し始めた。 「秋の言う通り。よく告白はされてたんだ」  想定の範囲内。  だって佐々に、モテない要素が見当たらないから。 「でも一度だって受けなかった」 「!」  その答えは想定外だった。 「俺。不条理なことが嫌いって前にいったろ?」 『不条理?』 「弱い者いじめとか、嫌がらせとかそういうの」 『言ってたね』 「誰かがそういう目に遭ってると、つい手が出て揉め事になってさ。庇った相手から告られる……みたいなことの繰り返しで」  俯きがちに伏せられた、長い睫毛が儚く見えた。 『佐々は、色んなヒトを助けてきたんだね』 【喧嘩が強い】  そのイメージだけが、きっと周囲の印象として残ったんだろう。  とても大きな背に、一見すると、冷めても見える整った顔立ち。  凛とした佇まいや家柄の件も相俟って、裏ボスなんて尾ひれが付いた。 『最近はあまり喧嘩してないよね?』 「まぁ、してないな」 『どうして?困ってるヒトに遭遇してないから??』 「それもあるけど……」  閉じられた薄い唇。  スッと横に引かれた淡いピンク色のそれは、とても綺麗で魅力的だ。  次の言葉を待つ間。じっと見続けていたからか。  僕の鼓動が走り出す。 (大事な話をしてくれてるのに)  トクントクンと音を立て始めた胸を、そっと両手で抑え込む。 「秋がいるから。したくないんだ」 「!……」 『どうして僕がいると、したくなくなるの?』 「誰かを助けて、何かに巻き込まれたら、秋と一緒にいられなくなるかもしれないだろ?現に何度か、休学処分だって受けたことあるんだ。俺」  なんて返すのが、正解なんだろうか。  僕のそばにいたいから、佐々が誰かを助けるのをやめる。  それってつまり、本来なら助かるはずのヒトが、僕のせいで助けてあげられなくなるってことなんじゃ、ないだろうか。 (それでホントに、いいのかな?) 『佐々が助けてきた子たちって、女の子が多かったんだよね?』 「うーーん。七割ぐらいかな」 「……………………」  あの時の、恐怖の光景が、ふと頭を通り過ぎる。  すぐ後に、あの日僕の身体を包んでくれた、大きくてあたたかい佐々の腕の中の温度を思い出した。  身体的な特徴は、どんなに理想論を掲げても、永遠に覆ることはない。  僕が言葉を発せないように。佐々が助けた女の子たちが、イカれた男たちに勝つことも、それなりに困難なものに、僕には思えた。 (僕自身が、被害に遭ったからなのかな?)  仮にいまから僕が鍛えて強くなって、そしたら佐々は、女の子たちをまた助けようって考えになるんだろうか。  僕の気持ちは複雑だった。
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