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Episode10 望み
「最近、放課後忙しいみたいだけど、何か新しいことでも始めたのか?」
『ちょっとした習い事をね』
「相談ぐらいしてくれても良かったのに」
『報告するほどのことでもないよ』
「……………………」
口を噤んだ佐々と歩く。
佐々が過去の話をしてくれてから、僕は近所の小さなボクシングジムへ通い出した。
もちろん佐々は、そのことを知らない。
言ったら絶対、気にするから。
これまで僕はどうしたって、必要以上にヒトと関わる選択肢を取れないでいた。
今回のことは、何か良い方向へ転ぶかもしれない。
男らしい身体付きを手に入れたら、自分の弱さを克服できるかもしれない。
女の子でない僕にできること。
何よりも、佐々には佐々らしくいてほしい。
僕のために、余計な我慢をさせたくない。
同性で、喋ることのできない僕の隣は、色々な意味で、我慢を強いられる場所なはずだから。
どんな僕を見ても、好きだと言ってくれた佐々だからこそ。
自由にいてほしい。
そう心から思って決めた。
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