Episode1 ピンチ

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(っ!誰か来た!!)  助けてもらえるかもしれない。  一瞬にして、希望が拓く。教師かも。もしそうだったら最高だ。  大人数対一人のせいで、勝ち目が全くなかった絶望的な状況も。  これでようやく。 「なぁ?ここってだいぶ長く使用中じゃね?」  扉の前から声がした。  残念ながら、僕らと同じく生徒のようだ。  三階角の突き当たり。窓がない方の個室トイレ。  連れて来られ、三人がかりで押し込まれた。僕にとって、ついさっき、最悪の記憶が生まれた場所。  気付いてくれる人が、いてくれた。  それだけでも、驚きだった。 「んーー?そうかぁ??いいから行くぞ、(きょう)」  廊下の方から、その人の友だちらしき人の声が聞こえた。 (いま逃げないと!)  必死だった。  思いきり、真田のモノを手で叩いた。 「イッテ!!」  壁に腰を預けて立ち上がる。ガクガクと震える身体を抱え、奴らから身を守るようにして、歩き出す。  僕よりガタイのいい人間たちに、引っ張って来られた時点で、 【もう終わりだ】  そう思った。  だってここは、旧校舎。  しかも部活で使われてる一、二階はともかく。  三階は、まず人が通らない。  すんでのところで助かると、自覚した途端、吐きそうになった。  緊張からの解放か、ついさきほどまでの恐怖のせいか。  原因なんて、解らない。  驚き固まる真田たちの間を一歩一歩、跨ぐようにして鍵へと手をかけた。 「やめろっ、開けんな」  そこまで来て、やっと正気を取り戻したのか。  真田の両サイドにいた二人の手が、鍵へと伸びて、小声で叫んだ。  ダンダンダン!!  固く握られたままの拳を願うようにして、ドアを打つ。 (ここにいるから!お願い気付いて!!)  祈るような気持ちだった。
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