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Episode3 爽快
夕方の学生で賑わうファミレスは、正直ほとんど来たことがない。
誰かといると、どうしたって声を出せない弊害で、気落ちしてしまう自分がいた。
そのため基本、僕は単独行動。
故に、人が集まる場所は、自ずと行動範囲から外れて来る。
「何食う?ドリンクバーでも俺はいいけど」
『いや、肉食べたい』
「また気が合ったな。俺も肉食いたいと思ってたわ」
軽やかに笑う佐々といると、ついついこっちも口元が緩む。
絶対キモくなっているはずなのに。
佐々は何もツッコまない。
注文後。大体誰かといると、相手の泳いだ目を見つめる時間だったはず……。
なのにいつの間にか、そのことも忘れてる自分に気が付いた。
目の前で、ごく自然に会話する佐々。
「俺よくこのサイトでアクセ買ってんだけどさ。新作が昨日アップされてて」
『青い方。いい色味』
「わかる。だよな!赤より青」
色違いで並ぶお洒落なピアス。
たしかに赤もかっこいいけど、デザインからして、シックな雰囲気の青の方が、僕の好みだ。
「やっぱ青買おうかな〜」
頬杖を付いて佐々の身体が揺れる度、ワイシャツの隙間から、チラチラと見える首元に視線が行く。
『そのネックレスも、そのサイト?』
「これは店舗で買ったやつ。一応それなりのブランド品なんだけど。ブランドがどうっていうより、軽くて付け心地が良くてさ」
言いながら筋が綺麗な首元を見せられて、目を伏せた。
(何でだろう……?)
物凄く、見てはいけないものを目にした気分。
ゴクリと一つ、唾を飲み込む。
「目玉焼きハンバーグをご注文のお客様」
店員さんに尋ねられ、
「それ俺です」
佐々の腕がスッとテーブルへ伸び、ものを退けた。
(長いな、腕まで)
もう一つ。トレーに載ったポークステーキを、店員さんが僕の前に置く。
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
爽やかに答えた佐々に対し、お姉さんの頬が、ほんのり赤くなったのが目に留まった。
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