Episode3 爽快

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(佐々ってもしかして、かなりモテる……?)  薄々勘付いてはいたものの、直接訊くのもどうなのか。 「よし!食おうぜ」  どこまでも嫌味のない笑顔で促され、フォークとナイフを両手に持って、ほくそ笑む。 「いただきます」 (いただきます)  心の中で呟いて、ぺこりと軽く頭を上下に動かす。  じっと感じる正面からの視線。  顔を上げたら、佐々の瞳に自分がいた。 「?」  首を傾げる。 「何かいまの、ちょい可愛かったわ」 「っ!」 (なっ!何をいきなりっ)  佐々の唇が、スッと綺麗な弧を描く。  ハンバーグが吸い込まれていく。薄い唇から目が離せない。 「何?食いてぇの?」 「?!」 「一口やるよ。柳瀬のも頂戴」 (あっ、ハンバーグか……。っていま、何考えて?!) 【食いてぇの?】  そう聞かれてすぐ、僕はいま。  佐々の唇のことかと思ってしまった。 (へっ、変態みたい……)  きっと僕は焦ってるんだ。  友だちとこんな風に、放課後を過ごしたことがないから。  佐々がせっかく、何の気負いもせず話せるよう、学校の外へ誘ってくれたというのに……。 (申し訳がなさ過ぎる) 『佐々。誘ってくれてありがとう』  堪らなくなって、文字を打った。 「えっ?何それ。そんなん言われたら、俺。柳瀬のことしょっちゅう連れ回しちゃうよ?」  優しい笑みで返されて、やっぱり胸が苦しくなる。 (せっかくの食事なのに、また胸焼けが) 「どした?眉間に皺寄ってっけど。そんなにそれ不味い?」 『違う。胸焼け』 「なぜ肉をチョイスした?しかもステーキ」  口元へ手を当てて、肩を震わせ佐々が笑う。 『そんなに笑わないでよ』 「いや、だって。胸焼けなのに肉食いたいって。お前どんだけ食欲旺盛?」  乾いたソファ席で、顔を背けて笑われる。 「あぁ~もう!笑い過ぎて腹痛ぇわ」 『ツボ浅いって、言われない?』 「そんなの、メシ食う並みに言われてるけどさぁ〜。っくく」 (やっぱりそうか)  口元を腕で隠し、目に涙を溜めながら、プルプルしているその姿に。 (ずっと見てられそうだな)  今日何度目かの、笑顔にならずにはいられなかった。
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