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Episode4 噂
ファミレスに行った翌日も、その翌日も。
それから佐々は毎日、教室へ来るようになった。
すると周りの、僕に対する態度が変わり始めた。
「おはよう」
「おはよ。柳瀬」
朝一で挨拶される。
声が出せない僕に対し、クラスの奴らは一定の距離を置いていた。
けれどその考えを、改めなければならなくなったのだろう。
【柳瀬のバックに、佐々が付いてる】
手に取るように解る思考も、無視されるよりはずっと良かった。
『おはよう』
強いて言うなら、毎度向けなければならないスマホの画面が、少し面倒くさくは感じたけれど。
(あの時の地獄に比べたら、ホント天国)
トン、トン、トン。
(ん?)
後ろから、ゆっくりと肩を、一本指で突かれる。
『何か用?』
文字面だと、不機嫌だとよく誤解されるので、少し誇張し首を傾け、振り向いた。
一つ後ろの席へ座る。いつも空気みたいに大人しい曽野坂が、眠たげな目でこっちを見てる。
「朝から王子様来てるよ。はやく行けば?」
振り返ると、
「おはよう。柳瀬」
品の良い笑顔が胸に刺さった。
「っ」
(胸焼けなかなか治らないな)
「もうすぐクラス替えだからさ。今日担任に相談したんだ。来月から柳瀬。俺と同じクラスでも平気??」
「?!」
(もしかして、わざわざ僕に、それ訊くために朝から来たのか?!)
フリーズした僕の顔のすぐ前で、心配そうに佐々が手を振る。
「大丈夫?嫌なら、離してもらうよう、頼んどくけど」
(嫌なわけがありますか?!)
叫びたい。
けれどももちろん。声は出せないので、
『佐々と一緒がいい』
恥じらいつつ見せたら、くしゃっと佐々の顔が歪んだ。
「俺もそうしたい」
「っ〜〜!!」
声にならない声で身悶える。
バタつく僕を、佐々はテンションが上がったと受け取ったようで、
「朝から元気だな~」
と能天気な声が振って来た。
「目の前でイチャつくの、マジでやめてほしいんだけど」
「!」
真後ろからの呟きにギクリとする。
(そっか。傍からはそう見えるのか)
「僻むなら、自分がいい奴見付けることに専念すれば?」
(……へっ?)
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