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9
翌日のバイトは休みをもらってた。おばあちゃんを病院に連れて行く日だったので。
もっとも、連れて行くっても車も乗れないし、タクシー呼んで一緒に付き添うだけなんだけど。
「経過は順調」
おじいちゃんのお医者さんはそう言った。
あっさり終わったので、帰るとまだ11時前。
ぼくはいつもの居間でごろりと転がり、本を読んでいた。
「こんちはー」
(えっ)
何だか聞き覚えのある声が表でしたので、急いで出てみた。
すると、昨日の三人組が笑顔で立っている。
「どうしたんですか?」
そう尋ねると、健が言った。
「いや、あの後、明日、渚はお休みだっつーて事情を話したら、私たちもお見舞いに行こうって。観光に来てお見舞いもないだろうにと思ったんだが、どうしても行きたいて言うから連れて来た」
「あれ、くぬっちゅぬちゃーやたーだい(この人たちは誰だい)?」
中からおばあちゃんが出てきた。
「おばあちゃん、この人たちはね、バイト先の先輩と、東京から来た人たちだよ」
「ぬーんち、うんなっちゅぬちゃーがぃやーたんにてぃくるだるい?(なんで、そんな人たちがお前を訪ねて来るんだ?)」
「あぁ、おばあちゃん、昨日四人で飲んでですね……」
と健が言ったところで、里沙さんが小さく「馬鹿」と割り込んできて、
「いえ、昨日、渚くんと4人でご飯食べてて、おばあちゃんのお話聞いたら、私たちもおばあちゃんのところに行ってみたいなぁって」
「馬鹿、行ってみたいなぁじゃなくて、お見舞いに行きたいなぁだろう」
夫婦漫才みたいで面白い。
「これ、ほんの気持ちですけど」
そう言って翔子さんがマンゴーの入った袋をくれた。
「あんがあんが、遠慮さじやーんかい上がれい(そうかそうか、遠慮せず上がれ)」
「上がれって」
通訳が要る。
「おじゃましまーす」
さっきまでぼくが転んでた、海の見える風通しのいい居間に通した。
「わぁ、気持ちいいねー」
「エアコン効かせたホテルの部屋よりいいんじゃない?」
おばあちゃんが、ぼくに向かって聞いてきた。
「渚、むる、ゴーヤチャンプルー、かむがやー?(みんな、ゴーヤチャンプルー、食べるかね?)」
みんなに向かって聞いてみる。
「ねえ、みんな、ゴーヤチャンプルー、食べる?」
「わぁ、食べたい食べたい!」
「食べたいって」
ばあちゃんはにこにこしながら台所へ向かった。
「どうだい? こんなところに毎日暮らしてんだぜ、おれたち」
健がちょっと自慢気に言う。
里沙さんが脱力しながら言った。
「長生きできそう……」
「渚くんが、ここが大好きだって言う訳がわかるよ」
翔子さんも呟いた。
海を見て一瞬静かになった四人の間を風が通り過ぎていく。
「あっ、おばあちゃんを手伝いに行かなきゃ!」
二人はバタバタと奥へ向かった。
「台所、こっち?」
「うん」
男二人で居間に残る。
さっきまで喋ってた健が、珍しく何も喋らない。
真っすぐ前を見て、21年見つめて来た海を眺めてる。
健も時に考えることはあるだろう。
(こっちが本当の健だったりして……)
ふとそんなことを思ったが、余計な言葉はかけずに風に任せる。
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