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「なんか、おばあちゃんをお見舞いに来たのに、お昼ご飯よばれちゃって、私たち何しにきたのか」  翔子さんがそう言ったので、 「いや、おばあちゃん、若い人好きなんで。元気出たよね?」  そうおばあちゃんに尋ねると、 「やさやさ(そうそう)」 と嬉しそうに言う。 「なら、いいんだけど」  里沙さんが珍しくしおらしい顔つきでそう言った。 「ごちそうさまでした!」  みんな食べ終わったので、ぼくが皿を洗おうと台所に行くと、翔子さんがついて来てくれた。 「あっ、別に大丈夫ですよ、これくらいさっと洗いますから」 「いや、でも悪いわよ」  そう言ってぼくから皿を取り上げ、洗い始める。 「お皿拭いてくれる?」 「あっ、はい」  肌ざわりの良さそうな白い綿のワンピース。ノースリーブからのぞく肩にさらさらの髪がかかってる。 「うん? 拭いてないじゃない。お皿たまるよ」 「あっ、ごめんなさい」  慌てて拭き始める。 「おばあちゃん、元気ね」 「はい、元気が取柄で」 「でも、足を痛めてから急に弱ることってあるから、気を付けてあげないとね」 「そうですね」  洗い物しながら話が出来るって、いいなと思った。 「さあ、済んだぞ」 「ありがとうございました」 「ううん」  そう言いながら、目を細めて笑う。  最初の頃はまるでクールビューティだったのに。翔子さん、なんかちょっと印象変わってきたと思う。  最後の一枚を拭きながら特に意味もなく聞いてみた。 「この後、お昼から、どうするんですか?」 「どうしよう。何も考えずに来ちゃったな。どうしたらいい?」 「えっ、ぼくに聞かれても……」 「渚くんは今日どうしようと思ってたの?」 「いや、本でも読みながら、寝落ちしようかと」 「素敵ね……。東京人には最高の贅沢かも」 「ですね」 と、言いつつみんなのところに戻る。 「ありがとう!」  里沙さんがこっちを見て言った。 「いいえ」  おばあちゃんを囲んで健と里沙さんは盛り上がってた。 「そうだ! おばあちゃん、肩揉んであげなきゃ」 「あんかい、あんかい(そうかい、そうかい)」  こうして夏の午後はゆっくりと過ぎて行った。  肩揉みも終わり、喋ったり、外に出たり、めいめい思い付くまま過ごしていると、いつしか声が聞こえなくなった。 「何か、静かね」  ぼくは翔子さんと庭にいた。 「そうですね」  部屋を覗くと、健は大の字になっていびきをかき、おばあちゃんは座椅子で上を向いて、里沙さんはテーブルにうつ伏し、大の大人がまるで催眠術にでもかかったように眠ってた。  それはとてもいい光景だった。 「スマホで撮っちゃお」  翔子さんが笑いをこらえながらみんなを撮ってる。 (こんな家族がいたら楽しいだろうな……)
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