13

1/1
前へ
/35ページ
次へ

13

 お昼過ぎ、予定通りまたお店に来た二人。 「お昼ご飯食べますか?」 「うん」 「何にします?」 「カレー2つ」 「あー、昨日のゴーヤチャンプルー、美味しかったなぁ」 「あっ、それもばあちゃん喜んでましたよ」 「一生忘れられないな」 「そこまで?」 「だって、食べ物の記憶って、どこでどんな人たちとどう食べたか、って言うのがやっぱり大事じゃない。いや、絶対忘れない」 「そうね、みんなの記憶ね」  カウンターに向かって歩く。  翔子さんの「みんなの記憶」って言葉が嬉しかった。   (この後、「みんな」はどうなるのかな……) 「はい、カレーどうぞ」 「ありがと」  海の家の定番、カレー、ラーメン、氷、アイスコーヒー。  どれも海で食べると普段の数倍美味しいのは、何故だろう。  カレーを食べると、いよいよシュノーケルの時間だ。シュノーケルの場合、健がボートを出して、ポイントまで連れて行く。 「渚、道具を頼む」 「わかりました」 「あ、お前も来てくれよ」 「了解です」  ここ数日で、なんだか健がほんとの兄貴のように思えて来た。  自然に焼けた肌も、以前は全く興味なかったのに、最近ちょっと眩しく見える。  ボートで沖の小島まで行く。船で10分。  エンジンがかかるとボートは小気味よく揺れ、船尾の海中に無数の泡が湧き立った。  一昨日、きゃあきゃあ言いながらバナナボートで走り回ったリーフの中を、今日ボートから落ち着いて眺めてみる。  なんだか一段と綺麗だ。  リーフの中はどこまで行っても海の底がよく見えた。 「一昨日は景色なんてゆっくり見てる余裕なかったと思うけど、とってもきれいでしょ。珊瑚に守られた内海がリーフ。白波が立ってるあそこからが外洋」  添乗員らしく二人に説明してみた。 「あそこから急に深くなるの?」 「まぁ、そうですね」 「そう考えると、ちょっと怖いね」 「大丈夫ですよ」  リーフは魚の楽園だが、人間にとっても天国だ。  まるでカレンダーにしたくなるような眺め。その写真の中に今ぼくたちはいる。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加