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沖縄のおばあちゃんと沖縄が大好きだった。
小学生の頃は、夏休みになるとよくおばあちゃんの家に遊びに行った。おばあちゃんの家は沖縄本島から程なく離れた島にある。家の目の前がすぐ海で、ビルの谷間で育った自分には行く度天国のような気持ちになれた。
おばあちゃんは、ぼくが泳ぎ疲れて帰ってくるといつも冷えたスイカを出してくれた。
「まーすふてぃかみねーまーさんどー(塩ふって食べるとおいしいぞ)」
おばあちゃんはそう言ってたけど、おいしいと思ったことはない。
「甘いスイカがしょっぱくなって、全然おいしくないよー」
「なーらならーらわらびやんやー(まだまだ子どもだなぁ)」
そう言っておばあちゃんは笑ってたが、大人になろうとどうなろうと、あんなしょっぱいスイカは絶対おいしくないと思ってる。
そんなおばあちゃんとも中3の夏以来会ってない。
一人暮らしのおばあちゃんが心配で、ぼくは夏期講座をキャンセルし(もちろん母親は反対したが)、一人羽田を飛び立った。
「もう、いつからこんなに言うこと聞かない子になったのかしら」
ぶつぶつ言ってた母親だったが、往復の旅費と小遣いはくれた。
飛行機と船を乗り継ぎ、久しぶりにおばあちゃんの島に着いた。
「おばーちゃん、来たよー! 足、大丈夫?」
島の景色はいつ来てもこの世のものとは思えない。どこまでも混じり気のない海と砂、遥か彼方まで続く水平線は “神様” の存在をぼくに信じさせた。
「渚、ゆーっちくぃたんやー(渚、よく来てくれたなぁ)」
ぼくに「渚」という女の子みたいな名前を付けたのはおばあちゃんだ。母親は気に入らなかったらしいが、父親のプッシュでそうなったらしい。お陰で病院やら新しい先生やらに女子に間違われ苦労するが、この海を見るとそんな恨み節もどこかへ消えていく。
高校生のぼくが、おばあちゃんの身の回りの世話の他、島でできることと言ったら、泳ぐこと、食べること、本を読むことくらいだった。スマホはあったが、別に見たいとは思わなかった。ここまで来てそんなジャンクフードみたいな情報にまみれたくはなかった。
おばあちゃんも骨折生活に少し慣れてきた頃、近所の人に頼まれて、ぼくは海の家でバイトを始めた。
母親は「いつまでそっちにいるの。早く帰って勉強しなさい」と連絡してきたが、勉強どころか、学校そのものに行きたくなくなった。
「おばあちゃん、おれ、ずっとこっちにいようかな」
「はっはっは」と豪快に笑う。「ダメ」とも「いい」とも言わないで。
島には都会から何かを求めて人がやって来る。その気持ちはぼくにもよくわかる。この景色の中で一週間も泳いでいれば、少々の悩みや病気ならどこかに吹き飛んで行くだろう。
バイト先でぼくはパラソルを出したり、氷を運んだり、ボートを貸し出したりして、それなりに忙しかった。けっしてゆっくり本でも読みながら、というわけにはいかなかったが、青い海と空のもとで毎日色んな人を観察するのは楽しかった。
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