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 嫌な予感を掻き消そうとしてると、無線が鳴った。 「はい」 「あっ、渚くん!」  里沙さんの声だった。 (えっ、なんで)  翔子さんも耳を近づける。 「健くんが、怪我しちゃった!」  声の様子がちょっとパニくってる。 「血が出てるの!」 (やばい……) 「里沙さん、ジェット、運転できますか?」 「それが動かないのよ! 多分ガス欠」 (どうしたらいい?)  今度は自分がパニくる。  その時、翔子さんがぼくから無線を取った。 「私が迎えに行くわ!」 (えっ) 「渚くん、もう1艘のキー取って来て!」 「りょ、了解」  そう言ってキーを取りに走り出す。キーは倉庫のいつもの場所だ。  戻って来るともうジェットに翔子さんが乗っていた。  ぼくは翔子さんにキーを渡して、急いでアンカーを外す。 「ぼくも行きます」 「ありがと」  そう言って後ろに座り、また彼女の腰に腕を回す。  ジェットが波に抗うようにダッシュした。  雨がかなり降って来た。 「翔子さん!」 「何?」 「運転できたんだ?」 「去年、里沙と一緒に免許取ったの!」  意外だったが、助かった。  穏やかなリーフは、同じ海とは思えない程酷い表情を見せる。  頭は健のことでいっぱいだった。 (大丈夫、きっと大丈夫……)  心の中で健の無事を祈る。  波が怖い。何より吐きそうだった。
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