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 それはお盆明けのことだった。  すっかりこっちの生活にも慣れ、島の一員になり始めていた頃、ビーチに目立つ二人組の女子が現れた。大学生? OL? ちょっと大人っぽい出で立ちは、人も減り始めた浜辺で黙っていても人目を集めた。  イエローのビキニを着てる女の子は泳いだり、他のグループと遊んだりして楽しそうだったが、もう一人の赤色水着さんは、はしゃぐでもなく、泳ぐでもなく、只々パラソルの下で本を読んでいた。  二人が海の家に氷を求めてやってきた。 「イチゴミルクをふたつ」  イエローさんが言った。 「はい」  伝票を書いてるぼくを見てる。 「この島にも君みたいな年頃の子がいるんだね」 「帰省中なもんで」 「実家がこっちなの?」 「おばあちゃんが怪我をして。夏の間だけ」 「ふーん。偉いね」 ぼくは氷を削りに厨房へ戻った。暖簾越しに見えた赤色さんはずっと遠くを眺めてる。 「はい、イチゴミルク、お待たせしました」  アルミ製のテーブルに山盛りの氷を置く。 「ねえ君、どこからこっちへ帰って来たの?」  やっぱりイエローさんが尋ねる。 「東京です」 「えっ、どこどこ?! 東京の」  急に乗り出すのでかき氷がひっくり返るかと思った。 「中目黒です」  その時、赤色さんが初めてこっちを見た。しかし、喋るのはやっぱりイエローさんだ。 「そうなの。わたしたち横浜。東横線つながりね!」 「そうみたいですね」  ぼくはお盆をもってカウンターへ戻った。  二人は氷をゆっくり食べて、暫く喋っていたが、またパラソルへと戻っていった。帰り際にイエローさんがぼくの方に手を振っていた。
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