8人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
3
それはお盆明けのことだった。
すっかりこっちの生活にも慣れ、島の一員になり始めていた頃、ビーチに目立つ二人組の女子が現れた。大学生? OL? ちょっと大人っぽい出で立ちは、人も減り始めた浜辺で黙っていても人目を集めた。
イエローのビキニを着てる女の子は泳いだり、他のグループと遊んだりして楽しそうだったが、もう一人の赤色水着さんは、はしゃぐでもなく、泳ぐでもなく、只々パラソルの下で本を読んでいた。
二人が海の家に氷を求めてやってきた。
「イチゴミルクをふたつ」
イエローさんが言った。
「はい」
伝票を書いてるぼくを見てる。
「この島にも君みたいな年頃の子がいるんだね」
「帰省中なもんで」
「実家がこっちなの?」
「おばあちゃんが怪我をして。夏の間だけ」
「ふーん。偉いね」
ぼくは氷を削りに厨房へ戻った。暖簾越しに見えた赤色さんはずっと遠くを眺めてる。
「はい、イチゴミルク、お待たせしました」
アルミ製のテーブルに山盛りの氷を置く。
「ねえ君、どこからこっちへ帰って来たの?」
やっぱりイエローさんが尋ねる。
「東京です」
「えっ、どこどこ?! 東京の」
急に乗り出すのでかき氷がひっくり返るかと思った。
「中目黒です」
その時、赤色さんが初めてこっちを見た。しかし、喋るのはやっぱりイエローさんだ。
「そうなの。わたしたち横浜。東横線つながりね!」
「そうみたいですね」
ぼくはお盆をもってカウンターへ戻った。
二人は氷をゆっくり食べて、暫く喋っていたが、またパラソルへと戻っていった。帰り際にイエローさんがぼくの方に手を振っていた。
最初のコメントを投稿しよう!