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ペタ、ペタ、と裸足の音をさせながら、女が追ってくる。
さいわい、女の足は速くなかった。
腕も足もガリガリにやせていて、一歩ふみだすたび、ぐうらり、ぐうらり、体が左右にぶれる。まるで「やじろべえ」みたいで、見るからに危なっかしい。
だからって、心配する気持ちはぜんぜんわいてこなかったけど。
少し距離をかせいだところで、モネちゃんがカンテラの灯をふっとふき消した。
いきなり目の前が真っ暗になって、わたしは悲鳴をあげる。
「な、なんで消すの!」
「明かりをつけていたら、こっちの場所を教えるようなものでしょう」
はじめはパニックになりかけたけど、暗闇の中を走るうちに、少しずつだけど目がなれてきた。
だけどその代わりに、ふたりとも息があがりはじめる。
このまま走りつづけるのは無理だ。どこかで、あいつをやりすごさないと。
モネちゃんは後ろをふりむいて、女の姿がないことを確認すると、開けっぱなしになっていた扉のひとつへすべりこむ。
そこは、わたしが最初に出てきた女子トイレだった。
わたしを連れて、モネちゃんはいちばん奥の個室へ逃げこんだ。
カギをかけようとしたけど、錆びて動かない。しかたなく、ドアを手でおさえる。
わたしは、もうれつにイヤな予感がした。
「ちょ、ちょっと。まずいんじゃない。ここ」
「……確かに、失敗したかもしれないわね。行きどまりだもの」
「それもあるけど……」
これ、完全に怪談でよくあるパターンじゃん。
そのとき、ペタペタとリノリウムを踏む足音が、廊下のむこうから聞こえてきた。
わたしとモネちゃんは、あわてて息を殺す。
そのまま通りすぎてくれないかという、わたしの淡い期待を裏切って、女の足音は、トイレの前で止まった。
ゆっくりと、トイレの中へ踏みこんでくる。
コンコンコン。
ギイーッ……。
入口に一番近い個室をノックしてから、中をのぞく。音を聞くだけで、女の動きがはっきり見えるようだった。
(うわ、うわ。ほんとに怪談のパターンどおりだよ……)
さっきの、壁に打ちつけられていた低学年の服を思いだして、わたしは体の芯がサーッと冷たくなるのを感じた。
コンコンコン。
ギイーッ……。
コンコンコン。
ギイーッ……。
個室を確認しながら、女は少しずつ奥へとやってくる。ふーっ、ふーっ、という荒い息づかいが、確実に近づいてきていた。
次はいよいよ、わたしたちの隠れている個室だ。
身を固くして待つ。
けれど、なかなかノックされない。
まさかと思って顔をあげると――今まさに、ドア枠の上から女が顔を出そうとしているところだった。
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