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「うわわわっ!」
パニックになったわたしは、おさえていた個室のドアを、逆に力いっぱい突きとばしてしまった。
結果的には、これが正解だった。
カギのかかっていないドアは勢いよく半回転し、となりの個室のドアにぶち当たる。
ドアによじのぼっていた女は、その勢いでバランスをくずし、となりの個室に頭から落下してしまったんだ。
「今よ!」
モネちゃんが飛びだす。
わたしもあわあわしながら、いっしょに走った。
モネちゃんはトイレを脱出しながら落ちていたデッキブラシを拾うと、入り口の引き戸をガラガラと閉める。
そして、扉と戸袋の間にデッキブラシをかませてつっかい棒にしてしまった。
ガタガタガタガタ。
追いついてきた女が内側からドアをゆさぶるけれど、なかなか開かない。
とうとう、中から金槌でガンガン扉をたたきはじめた。
だけどそのときにはもう、わたしとモネちゃんは手に手をとって、その場から逃げだしていた。
わたしの持っていたカギで南京錠を開け、地下へとつづく階段に逃げこむ。
わたしとモネちゃんは、そこでふうーっと大きく息をはいた。
「今のは柚子さんのおかげね。意表をついて上からおそってこようとしたのを、逆にやっつけてしまうなんて。お見事だわ」
「いや、なんか、似たような話をたまたま知ってただけで……」
「たまたまでもいいじゃないの。人生、何が役に立つかなんてわからないのだから、どんな知識でも持っておくものよ」
そんなふうにほめられると、照れくさい気持ちになる……って、いやいや。ちょっと待って。
「そもそも、モネちゃんがあんなところに隠れたのがよくなかったんだと思うんだけど」
「……そ、そうかしら」
わたしがうらめしい気持ちをこめてにらむと、モネちゃんはすいっと目をそらした。
「っていうか、モネちゃんって、実はけっこう行きあたりばったりだよね?」
「そんなことないわよ? あたくしはあたくしなりにいろいろと考えたうえで、臨機応変な対応をしているだけで……。とにかく、これで4番の扉も突破したわ。この先の扉も開けてみましょう」
「ちょっと。話そらしてない? ねえ!」
モネちゃんはくすくす笑いながら階段をくだってゆく。
追いかけながら、わたしも笑った。
階段をおりたつきあたりにあったのは、ペンキがはげて錆びついた、鉄のシャッターだった。
これまでと明らかに雰囲気の違うそれに、モネちゃんはためらいなく手をかけると、ガラガラと引きあげる。
その瞬間、目がくらむほどあたりが明るくなった。
有線放送のキャンペーンソングと、入店チャイムの音。
気づくとわたしは、家にいちばん近いコンビニのトイレ前に、ぼうっとつっ立っていた。
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