第三階層・うしむし

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 体感で三十分くらいは、いりくんだ通路を歩きまわっただろうか。わたしたちはまた、ちょっと広めの空間に出た。  他と同じような干し草のたばやがらくたが、いくつかのかたまりに分けて積んである。  部屋のいちばん奥には、板でできた大きな扉があって、見慣れた金色の南京錠がかかっていた。  牛のレリーフのひたいには、3をあらわす「γ´(ガンマ)」の文字。 「扉は、あったけど……」 「カギがないわね。とりあえず、この近くを探してみましょうか」  わたしたちは手分けして、干し草をひっくり返したり、がらくたをどけたりしてみた。  これまでの感じからすると、そんなわかりにくい場所にこっそり隠してあるようなことはなさそうだけど。  探しながら、わたしは、はじめから疑問に思っていたことを言ってみた。 「っていうか……なんで、カギなんて置いておくんだろうね」 「どういうこと?」 「だって、ぜったい見つからないようなところにカギを隠しちゃえば、わたしたち、もう逃げられないじゃん。わたしがおばけだったら、そうするけどな」  もちろん、そうしてほしいわけじゃないけど。 「確かに、柚子さんの言うとおりね。でも、呪術や魔術って、そういうものかもしれないわよ」 「そういうもの、って?」 「人を呪わば穴ふたつ、なんて言うでしょう。誰かを呪えば、その代償は自分にかえってくる。逆に言えば、そんな危険をおかすからこそ、呪いが力を持つということだわ。一方的に自分だけ得しようなんて思ったら、呪術も魔術も成立しない。このラビュリントスも、子供をつかまえたいおばけたちと、逃げだしたい子供たち、どちらにもチャンスを与えなくちゃいけないというきまりごとで動いているのではないかしら」 「ふうん……?」  なんか、わかるようなわからないような説明だった。  首をかしげながら、大きなブリキのゴミ箱を開けてみる。その中をのぞきこんで、わたしはドキッとした。  中に、学ランやチェックのスカート、ランドセルやスニーカーなどが、ぎゅうぎゅうにつめこまれていたからだ。  ぼろぼろに傷んではいたけれど、昭和からタイムスリップしてきたようなこの「牧場」のものに比べて、どれも新しめのデザインをしている。  固まっているわたしに気づいて、モネちゃんが近づいてきた。セーラー服のえりの中についた短い毛を、ちょんと指でつまむ。白と茶色が混ざった色をしていた。 「……牛の毛のようね」 「えっ。あの死んでた牛?」 「わからないわ。……だけど見て、柚子さん。この毛……服の内側にばかりついていてよ」 「服の……内側?」  どういうことだろう。  あの牛たちが、この服を着ていたってこと?  それって、つまり……。いや、まさか……。  そのとき、わたしたちのうしろで、チリンと音がした。  ふりむくと、コンクリートの上に、金色のカギが落ちていた。  カギの真上では、銀色の空気ダクトが四角い口を開けている。  どう見ても、カギはそのダクトから落ちてきたようだった。  わたしとモネちゃんは無言で顔を見合わせる。  言葉に出さなくても、同じことを考えていることがわかった。  ……なんか、罠っぽい。
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