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モネちゃんはトランクからねじのついたフックを探しだすと、さっき拾ったホウキの柄の先端にねじこんで、即席の鉤ざおを作った。
できる限り離れたところから、その鉤ざおをのばす。
フックの先がカギに引っかかって、チン、と音をたてた瞬間──。
ダクトの口から、白っぽい何かが大量にふってきた。
一瞬、糸を引く納豆みたいに見えたそれは、ウジャウジャとからみあう、ものすごい数の白い虫だった。
カメムシに似ているけど、一匹一匹がわたしのにぎりこぶしくらいある。
やけどの後にできた水ぶくれみたいな、ぶよっとした質感をしていて、背中にブツブツの黒い斑点があった。
見た瞬間、生理的な気持ち悪さで、全身にぞぞぞっと鳥肌がたった。
引きつった顔のモネちゃんが、後ずさりながら、鉤ざおを引こうとする。
と、意外なほど強い力で、逆に引っぱりかえされた。
からみあって、ひとかたまりになった虫の群れが、まるで人の手みたいな形になって、鉤ざおの先をつかんでいた。
ダクトから、虫と一緒に白いものが落ちてくる。
白い棒みたいに見えたそれは、どうやら、なにかの骨らしい。
スペアリブの形をした肋骨と、角のはえた頭蓋骨があったので、わたしにもそれがわかった。
初日の理科室で見た、牛の骨格に似ている気がした。
落ちてきた骨をのみこみながら、虫の群れが立ちあがった。
針金を芯にして粘土人形を作るみたいに、牛の骨をむりやり二足歩行の形に組みかえながら、人間みたいなすがたになろうとしている。
人間よりも大きい牛の骨を使ったせいか、立ちあがったそいつは、上背が二メートル以上もあった。
頭の横から、むきだしの角が突き出している以外、全身がびっちり白い虫におおわれている。
虫がたえまなく動きつづけているせいで、白い体の上で、黒いもようがうずまいて見える。
牛の頭蓋骨の、ちょうどひたいのあたりでは、斑点が人の顔そっくりなもようを作っていた。リアルな、だけど昔の白黒写真みたいに粒子のあらい、男の顔。
虫の動きに合わせてもようが変化し、その顔が、にやああ、と笑い顔になった。
鬼だ。白い虫の鬼だ。
「柚子さんっ!」
モネちゃんの叫びで、ぼうっとしていたわたしはわれにかえった。
虫の鬼のつかんだところから、白い虫がつぎつぎと鉤ざおをはいのぼって、モネちゃんのほうへやってこようとしていた。
モネちゃんはそれを、手にもったカンカン帽ではたきおとしては、革ぐつで踏みつぶしている。
虫から出る汁は、うんだ傷口みたいな黄色だった。
「柚子さん、あれよ! あれを投げて!」
モネちゃんが叫んだ。
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