中間点C

1/4

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ

中間点C

 家に帰ると、学校から電話がかかってきていた。  保健室のベッドが一台、そこで寝ていた生徒(つまり、わたし)とともに忽然(こつぜん)と消えてしまったことが、ちょっとしたさわぎになっているらしい。  わたしが無事に帰っていることを伝えると、くわしく事情を聞きたいと言われた。  わたしはとっさに作り話をした。  ──六時間目のあと、具合がよくなったので、ひとりで帰ることにしました。変な人? いえ、特に見てません。……あ、いや、やっぱり見ました。白い服を着て、ごわごわした長い髪の毛の女の人です。昇降口に立って、保険室のほうをじっとのぞいてましたよ。  こんな感じで。  それは、うたがいをわたしからそらすためだけの作り話だったんだけど……思った以上に重く受けとめられてしまったらしい。  学校に不審者が侵入したなら防犯対策を見直さないと、という話になって、急遽(きゅうきょ)、翌日の学校はお休みということになったのだ。  おかげでわたしは、思いがけない自由行動の時間を手に入れることになった。  木曜日。  早めのお昼を食べたあと、市の図書館で勉強するからと言って、わたしは家を出た。  図書館に行くというのはうそじゃないけど、本当の目的は、この暮田市の古い歴史や怪談を調べることだ。  できれば朝から出かけたかったけど、塾の宿題を終わらせるまでは外出しちゃいけないと、お母さんに見張られていたせいで、この時間になってしまった。  とはいえ、ひとりで調べものをする自信なんてない。  そこで、ダメもとで拝田くんにアドバイスをお願いしてみることにした。  バスの中、クラスのSNSグループを使ってメッセージを送る。すると、意外な返事が返ってきた。 『だったら、うち来る? じいさんに頼めば、郷土史の本とか古い資料とか、いろいろ見せてくれると思うけど』 『え、いいの? おじいさん何者?』 『アマチュア郷土史家。つーか、おれが歴史とか興味あるの、そもそもじいさんの影響なんだわ』  もちろん、ありがたくおじゃまさせてもらうことにした。  拝田くんのおじいさんは、白いひげのよく似合う紳士だった。  高校の先生をしていて、少し前に定年退職したばかりだそうだ。まさかと思ってきいてみたら、なんと、宛内学院の高等部で教えていたという。  拝田くんが、わたしも宛内を受験することを説明すると、おじいさんはうれしそうに目を細めた。 「そうかい、そうかい。まあ、大正時代に設立されたような、古い学校だけどね。いろいろな学びのチャンスをあたえてくれる、よいところだと思うよ」 「は、はい。がんばります」  C判定だけど、と、心の中でつけくわえるわたし。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加