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それから拝田くんたちは、峰背家にあやしげなまじない師や奇術師が出入りしていた話や、戦後、峰背家の跡地をほりかえしたら骨になった牛の首だけがいくつも出てきた話をしてくれたけど、わたしはとっくにおなかいっぱいだった。
わたしがぐったりしていることに気づいたのか、拝田くんのおじいさんが、すまなそうな顔をする。
「きみのような女の子に、後味の悪い話ばかりしてすまなかったね。峰背家にまつわる話は、決してこんな陰惨なものばかりではないんだよ。峰背の一族は裕福で、当時の文化の最先端にあるものをたくさん持っていた。きみたちの学校の近くに、『峰背牧場記念館』というのがあって、いろいろ、当時の貴重な品物が展示されているから、今度見に行ってみるといい」
「あ……はい」
「ほら。これが当時の写真だ」
そう言って、『暮田市史』を開き、たくさんの白黒写真がのっているページを見せてくれる。
なにげなくながめたその中の一枚に、わたしの目は磁石みたいに吸いつけられた。
峰背家の一族と、屋敷をおとずれているゲストをおさめた集合写真だ。
真ん中に、大きな体をスーツにつつんだ峰背家当主。そのまわりを、家族らしき人たちが囲んでいる。時代のせいか、和服の人が多い。
一家から少し離れたところに、やせた、背の高い男の人が立っていた。肩にひらひらのついた、インバネスというコートを着ている。
そして男のとなりには、小学生くらいの女の子がよりそっていた。距離感からして、やせた男の娘なんじゃないかと思える。
その、女の子は。
頭にカンカン帽をかぶり、すそに迷路みたいな幾何学模様の入ったワンピースを着て、ゆるく編んだ三つ編みの髪を、胸の前にたらしていた。
「こ……これ。この子……」
写真をさす指が、ぶるぶるとふるえる。
拝田くんのおじいさんは本を引きよせると、老眼鏡の位置を調整しながら、小さな文字を読みあげた。
「ふむ。説明書きにはこうあるね。迷路職人・有間大道とその娘──モネ」
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