12人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
第二階層・レコード部屋の怪人
しめった土とカビのにおいで、わたしは我にかえった。
あたりを見まわすと、わたしがいるのは西洋のお屋敷みたいな、赤いじゅうたんの部屋だった。
すっかり荒れてじゅうたんはけば立ち、壁には黒いしみがついているけれど、もとは立派な部屋だったのかもしれない。
暖炉では今にも消えそうな火がちろちろ燃えていて、そのすぐ上の壁には、剥製にされた牛の首がかかっている。
窓ガラスのむこうは、ごつごつした岩の壁にふさがれていた。それで、ここが地下だとわかる。
わたしはラビュリントスに来ていた。
なんと言って拝田くんの家をあとにしたのか、記憶がない。
まっすぐ帰る気になれなくて、近所のコンビニに立ちよって……ジュースを買って自動ドアをくぐった瞬間、ここに来ていたのだ。
ぼうっとしたまま、わたしは歩きはじめる。
考えなくてはいけないことがあるのに、脳がそれを拒否している感じだった。
床の穴をまたいで、部屋を出ると、板張りの廊下が奥へとつづいていた。
ぎしぎしときしむ廊下を、ゆっくりと進む。
天井からさがったランプのおかげで、あたりはそれなりに明るかった。
曲がりくねり、枝分かれしている廊下の左右には、たくさんの扉がある。
わたしは、そんな部屋のひとつの前で立ちどまった。
半開きになった扉の奥から、うっすらと音楽が聞こえてくる。
そっとのぞいてみるけれど、人の気配はしなかった。それで少しだけ大胆になったわたしは、部屋の中へ入ってみることにした。
そこは、まるで図書館だった。
広い空間に、天井までとどく大きなたなが、いくつもいくつもならんでいる。たなの中身は本ではなくて、うすい封筒というか紙の箱みたいなものが、ぎゅうぎゅうにつまっていた。
部屋の真ん中にはどっしりした机があって、その上では、金色のラッパみたいなものがついた機械から、小さくピアノ音楽が流れていた。
黒くて大きな円盤が、機械の中でくるくる回っている。
テレビか何かで見たことがある。
これ、昔のレコードプレイヤー……蓄音機(ちくおんき)だ。
たなに収納されている紙箱をとりだしてみると、そこにもレコードが入っていた。これが全部レコードだとしたら、すごいコレクションだ。
ただ、どんな音楽が入っているのかまではわからなかった。無地の紙箱には、手書きのペン字で、「昭和元年 十一月二十日」という日付が書きなぐられているだけだったから。
他の紙箱も見てみたけど、どれも同じだった。「十一月二十一日」「二十二日」と、一日ずつずらした日付が書かれている。
──『レコード部屋の首切り怪人』っていうんだぜ。
とつぜん、拝田くんの言葉を思いだして、わたしはゾッとした。
わたし、何やってるんだろう。ひとりでこんなところに入ったりして。
答えはわかっていた。怖かったからだ。
モネちゃんと合流して……あの、古い写真に写っていた女の子のことを、聞かなくてはいけなくなることが。
最初のコメントを投稿しよう!