第二階層・レコード部屋の怪人

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 かたん、とまた音がして、レコードの再生が止まった。勝手に針が外れる。  動きを止めたレコードから、わたしは目が離せなかった。つやつやした黒い表面が、こっちをさそっているように感じる。  わたしは蓄音機に近づき、レコードを外すと、近くにあった空の紙箱にしまった。  だれかの目からかくすみたいに、ぎゅうっと抱きしめる。  どっどっどっどっ、と、心臓が早鐘のように鳴っていた。  とてもいけないことをしている気がした。  でも……でも……これさえあれば。  これさえあれば、わたしは合格できる。  受験に失敗して、お母さんから見捨てられてしまうという恐怖から、わたしは解放されるんだ。  レコードを胸にかかえたまま、わたしは逃げるように走りだした。  部屋の扉を出ようとしたところで、むこうから来た誰かとはちあわせする。 「ひゃっ!?」 「あら」  それは、今、わたしがいちばん会いたくて、いちばん会いたくない相手だった。 「柚子さん……よかった。今日はなかなか合流できなかったから、ずいぶん気をもんだわ。でも、いい知らせがあるのよ。見て。もうカギを見つけたの。当主の肖像画の下に、これ見よがしに引っかけてあったわ」  モネちゃんはそう言って、金色のカギを見せながら笑った。  なのに、わたしは凍りついたように固まったまま、なにも言えない。  モネちゃんが、不思議そうに首をかしげた。 「どうしたの? ……まるで、幽霊にでも会ったような顔をして」  ひくっ、とわたしののどが鳴る。 「柚子さん?」  わたしのようすがおかしいことに気づいたのだろう。モネちゃんの顔から、すっと笑みが消えた。 「もしかして……あたくしの写真かなにか、どこかで見つけたのではなくって?」 「あ、わ、わたし……」 「見たのね」  モネちゃんはそう言うと、ふうっとさびしげなため息をついた。 「……あのころはまだ、写真機が珍しくってね。撮ってもらえるとなったら、大喜びでレンズの前に立ったものだわ。まさか、その写真が百年も先まで残って、こんなふうに、あたくしを困らせるとまでは思っていなかったけれど」 「モ、モネちゃん。それって……」 「柚子さんの想像しているとおりよ」  モネちゃんはそう言って、わたしをまっすぐに見た。 「あたくしは、大正十五年に死んで、それからずっとこの世をさまよっているの。有間モネは、幽霊なのよ」
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