第二階層・レコード部屋の怪人

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 わたしは走った。  小窓と反対側にあるドアを使って、倉庫からぬけだしたあとは、なにも考えずやみくもに走った。走っているうちに、涙が出てきた。  失敗した。  失敗した、失敗した、失敗した。  わたしは、とりかえしのつかない失敗をしてしまった。  べそをかきながら走るうちに、階段にたどりついた。  洋風のドアに、牛頭の南京錠。マークは「β´(ベータ)」だ。  カギをあけ、扉の中にすべりこんだわたしは、そこでモネちゃんを待った。  五分待ち、十分待っても、モネちゃんは追いついてこない。  やがて、廊下の奥からドスドスという足音とともに、怪人が姿を現した。  肉切り包丁を提げた反対の手に、くしゃっとつぶれたカンカン帽を持っていた。  わたしは悲鳴をあげた。  扉の中へ逃げこみ、カギをかける。  怪人は扉のすぐ前までやってきて、しばらく、こちらのようすをうかがっていたけれど、やがてあきらめたのか、ゆっくりと去っていった。  どれだけ待っても、モネちゃんは追いついてこなかった。  わたしはひざをかかえたまま、ずっと泣いていた。  頭の中で、わたしのせいだ、という言葉がぐるぐると回っている。  わたしのせいだ。  わたしのせいだわたしのせいだ。  わたしのせいで、モネちゃんは……。  モネちゃんが来るまで、次の階への扉は開けないつもりだった。いつまでも、ここで待つつもりだった。  でも、待っているうちにどんどん心細くなり、おなかもすいてきた。  拝田くんの家から帰るとちゅうで姿を消したわたしを、家族も心配しているだろうと思った。  涙が出なくなり、のどがすっかりかれてしまうと、わたしはふらふらと立ちあがった。  階段をおりていくと、つきあたりに、白い大理石でできた、重そうな扉があった。  わたしは扉を開いた。
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