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スフィンクスと件は、似ている。
人の顔に、動物の体。
なぞをかけるのと、未来のことを答えるっていう違いはあるけど、言葉を使って人間を追いつめるところは同じだ。
じゃあ、もしかしたら──弱点も似ているんじゃないだろうか。
なぞかけに負けたスフィンクスが死んでしまったように、件も、真実を的中させられなかったら、ダメージを受けるんじゃないだろうか。
そう考えたわたしは、お父さんに電話をかけた。
量子力学について聞くために。
件鬼にも絶対に解けない問題を――物理的に答えを知りようがない問題を、教えてもらうために。
結果は見てのとおり。
件鬼は今、動けない。
そのすきに、わたしは件鬼のあごの下にもぐりこんだ。ポケットから出したガラスの破片で、カギを結んでいたひもを切る。
ずっしりしたカギをつかんで、今度は一目散に、反対方向へ走りだす。
すぐ背中で、怒りと苦しみでいっぱいの吠え声があがった。もう、人の言葉にはなっていなくて、牛の鳴き声そのものだった。
大理石の扉が近づいてくる。
あそこがラビュリントスのゴールだ。あの中に入れば、わたしはいますぐ解放される。
だけどわたしは扉には入らず、その横にある階段へむかった。そして、上のフロアめざして全速力でのぼりはじめた。
後ろでふたたび絶叫がひびいて、ラビュリントスがゆれた。
階段をのぼりきり、二番の扉を内側から開いて、大正時代の洋館を組み合わせて作ったフロアへと飛びだす。
「モネちゃん!」
わたしは叫んだ。
「モネちゃあああん!」
叫びながら角を曲がったとたん、すぐ目の前に、巨大な影が立ちはだかった。
レコード部屋の怪人──峰背明日太だ。
ぎくっとして身がまえたわたしは、すぐに、相手のようすがおかしいことに気づいた。
首にレコードがささってない。おまけに、肉切り包丁も持っていなくて、手ぶらだ。
「ウウ……ウウウウ……」
怪人はまるでわたしが見えていないみたいに、横をすどおりしていった。
廊下のはじにソファが置いてあるのに気づくと、はいつくばるようにしてその下を探し、ほこりまみれのレコードを引っぱりだす。
なにかを確かめるみたいに、ゆびでレコードのみぞをなぞったかと思うと、かんしゃくを起こしたように床にたたきつけた。そして、かぶった麻袋の上から頭をかきむしる。
わたしがポカンとしていると、
「……柚子さん?」
廊下のむこうから、声がした。
ふりむくと、モネちゃんが部屋のひとつから顔を出すところだった。ワンピースがほこりでよごれ、カンカン帽がくしゃっと曲がってしまっているけれど、ケガはしていない。
「モネちゃ……わぷっ」
わたしが名前を呼ぶより早く、モネちゃんが腕の中に飛びこんできた。
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