第一階層・件鬼

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「無事だったのね。よかった! ほら、もっとよく顔を見せてちょうだい」  そう言って、モネちゃんはわたしの顔をあげさせようとしたけど、つい、抵抗してしまう。  わたしはまた、泣きそうになっていたからだ。 「ずいぶん、怖い思いをさせてしまったようね。ひとりぼっちにさせて、ごめんなさい。あたくしったら、ふがいなくて自分がイヤになるわ」 「ちがっ……。わ、わたしの……わたしのせいなの。わたしのせいで、モネちゃん……死んじゃったんじゃ、って……」  ちゃんとあやまりたかったのに、のどがつかえて言葉にならない。  そんなわたしを、モネちゃんは優しくなでてくれた。 「心配してくれたのね。ありがとう。でもいいの。あたくしはもうとっくに死んでいるんだから、少しくらい傷ついたってへいちゃらなのよ。とはいえ、あたくしだけでは扉のカギが開けられなかったから……迎えに来てくれて、本当に助かったわ」  ガンッと大きな音がした。怪人が壁をなぐりつけた音だった。  びっくりしてふり返ったわたしに、モネちゃんが笑いかける。 「ああ……あれ? 別にもう、心配いらないと思うわよ」 「な、なにをしたの?」 「レコード部屋にあったコレクションを、全部ぐちゃぐちゃにして、いろんなところにかくしてやったの。あの人、その日の予定がふきこまれたレコードを聞きながらじゃないと、なにも手につかないらしくってね。ああやって、必死に『今日のぶんのレコード』を探しているのよ」  モネちゃんは悲しそうな目で、怪人を見つめた。 「あの人は、件の予言にたよりきって、自分で考えることをやめてしまったのね。なんだか、とても……あわれだわ」  その気持ちはわかる気がした。  きっとあの人は、失敗するのが怖かったんだ。  だから、ぜったいに失敗しない方法をもとめてしまった。……そんな方法、生きるのをやめてしまう以外に、あるわけがないのに。  そこでモネちゃんはふと、わたしがにぎりしめている金色のカギに目をとめた。 「柚子さん? こ、これって……?」 「一番の扉のカギ。件鬼が……この下にいたおばけが、持っていたの」  今度は、モネちゃんがポカンとする番だった。  目をまん丸にして、わたしを見つめていたかと思うと……急にいたずらっぽい笑みをうかべる。 「ほら、ごらんなさい。あたくしの言うとおりだったでしょう?」 「え。なにが?」 「こんなラビュリントスなんて、柚子さんひとりで攻略できてしまいそう、って、あたくし前に言ったわ。そのとおりになったじゃないの」  わたしは一瞬、こみあげてきたあたたかいもので、胸がいっぱいになるような気がした。  それでも、ゆっくりと首を振ってみせる。 「ちがうよ。わたしひとりじゃない……いろんな人が、知恵や勇気を貸してくれたから」  そのときだった。  地ひびきがして、バリバリバリッ、と足元の床にひびが走った。  あわててその場を飛びのき、走りだす。  直後、廊下の板を突きやぶって、件鬼が姿を現した。
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