第一階層・件鬼

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 ブオオオオオオオオオオオオオ────ッ!!  口がさけている。人間の顔から、牛の顔のつけねの部分までがぱっくり割れて、大きな大きな口になっていた。一面、ギザギザのキバがびっしりと生えている。  鼻先にある女の顔は、にくしみにゆがんでいた。真っ赤にそまった両目から、血の涙が流れ出ている。  このフロアの通路は件鬼にはせますぎる。  それでも、そいつは、まわりの壁や床をバリバリ破壊しながら追いかけてきた。  フラフラ歩いていたレコード部屋の怪人がくずれる床にまきこまれ、件鬼の口の中に落ちる。  ボキボキボキッと骨のかみくだかれる音がひびいた。  わたしとモネちゃんは、わき目もふらずに走りだしていた。  目指す場所はただひとつ。一番の扉だ。  階段をかけおりる。  大理石の扉はその先に、変わらぬようすで存在していた。  南京錠にある牛のレリーフには、数字の一を表す「α´(アルファ)」のしるし。  カギをはずし、大理石の重い扉を、ふたりがかりで開く。上からは、どんどん破壊の音が近づいてきていた。  扉の中は、せまい小部屋だった。  部屋の中心には、つぼが置かれている。まるで迷路みたいな幾何学模様。  モネちゃんが、つぼを指さして言う。 「あれが、ラビュリントスの心臓よ」 「どうしたらいいの?」 「簡単よ」  モネちゃんは、ニッと笑って言った。 「ぶちこわして」  わたしがつぼを持ちあげると同時に、岩のドームの天井を突きくずして、件鬼がふってきた。  血をはきながら怒りの叫びをあげ、こっちに突進してくる。  でも、わたしのほうが早かった。  力いっぱい床にたたきつけると、つぼはこなごなにくだけちった。  中から、血のように真っ赤な液体が飛びちり、床に広がる。  ラビュリントスが、まるで悲鳴をあげるようにふるえた。  湖の底がぬける。  そしてうずまく水が、たちまち件鬼をのみこんだ。
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