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『そっかー。
元気ならいいわ。
そこが一番気がかりだったの。』
しばらく黙っていた後、ほっとしたように言った。
『でも別れた理由が少し噛み合ってないね。
思い出ってそんなものかしら。』
『どうゆうことですか?』
女性は半笑いの遠い目で話し始めた。
『突然振られたって言ってたのよね。
私にとっては全然突然じゃないし、理由も少し違うわ。
確かに先に就職した彼が忙しくなって淋しかったけど、尊敬していたし、我慢できた。
就活も悩んでいたけど、私も自分で頑張ろうと素直に思っていた。
嫌だったのは、新しい環境でできた新しい仲間。
その中に仲の良い女性が出来たみたいなの。
ずっと一緒に仕事をしているから仕方ないけど、私より先にその人に何でも話していた感じだった。
岡村さんと肩を並べて働ける優秀な女性。
そんなの敵うわけない。
劣等感と淋しさが積もっていた時、デート中に会社の人達に出くわしそうになった。
その時、紹介してくれずに横道に逸れたの。
ああ、私はあなたには恥ずかしい存在なのね、それか出くわしたくない女性があの中にいたのねって…それで気持ちは壊れたの。
きっと、その人と結婚してるんじゃないかな。』
聞きながら僕は頭がズキズキしてきた。
思い当たることが多すぎる。
女性が続けて言う。
『何も疾しいことは無かったんだと思う。
でも、せめて何かを話したりするのは、私に真っ先にして欲しかった。
会えなくてもそれだけで、私はあなたの特別なんだって信じていられたのに。』
ああ…僕は何をしてしいたんだろう。
美紀。美紀。ごめん。
僕は美紀にとって特別なんだってこと、疑ったことなかった。
美紀が大事にしてくれていたからだ。
『あの…30年会ってなくてもお互いのことよくわかってる感じなのに、なぜ修復出来なかったんですか?』
女性の指にも指輪が光る。
頬杖をついて、また遠い目になった。
『そうねぇ。
結局は運命なのかもしれないけど、運命って言葉は他力本願な響きで好きじゃないの。
若い時って言いたいことがその場で素直に言えなかったり、言わなくてもわかって欲しかったり。
歳を取った今なら、それじゃ伝わるわけないってわかるのにね。
あの頃は時間の進みが早くて…ちょっとした弾みで繋いだ手が離れてしまったら私たちの間に色んな人が流れこんできて、あっという間に届かないくらいまで離れてしまった。
しばらくは取り戻そうと探した。
だけど彼から探してもらえてる気がしなかった。
迷っていたそんな時に夫が手を掴んでくれた。
最初は戸惑ったけど、しばらくしてから私も握り返した。
そんな感じかな。』
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