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あの土曜日から5日がたった。
美紀から連絡は無い。
僕もしていない。
こんなことは初めてだった。
連絡しようかとも思うけど、どうやって切り出すか考えあぐねていた。
そしてもうひとつの気がかり。
手紙はどうなったか。
ご本人に渡されただろうか。
時間が経って冷静になってきたら、大変なことをしてしまったと怖くなってきた。
最終的に決断したのは僕だから、バレた時にクビになるのは仕方が無い。
岡村さんを恨んだりもしない。
自分のことだけで済むならいいけど、大学の信用に関わってきたらどうしよう。
そんなことを今さらビクビクしながら考えていた。
美紀とあの日あんな別れ方をしたから、裕子先輩には手渡しに行ったことは言わなかった。
もうすぐ昼休みという時間に、中年の女性が入ってきてキョロキョロしている。
僕はピンときて、体が硬直し、汗が出てきた。
普段、中年の女性が来ることはほとんど無い。
裕子先輩が対応し、僕を呼びに来た。
『前に佑樹くんに対応してもらったから、呼んで欲しいと言われたんだけど、わかる?』
僕は冷静を装って『あー、はい。』と答え、女性の方へ行った。
女性は『前に聞いた刊行物の宛先変更をお願いしたいので、手続きお願いします。』と言いながらメモと封筒を見せた。
あの封筒だ…。
そしてメモにはこう書いてあった。
《この封筒に見覚えがあったら、お昼休みに駅前のスバル珈琲に来て下さい。
OKだったら頷いて。
心当たりがなければ、この手紙について大学側に話をします。》
もう頷くしかなかった。
女性が筆談にしてくれたことに感謝しながら、変更手続きを進めた。
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