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またあの人はやってきた。
あれから2週間くらいか。
この前は昼間だったけど、今日は終業間近だった。
入ってきてすぐに目が合った。
裕子先輩が椅子から立とうとしたけど、僕の方を見て手上げた。
最初から僕に対応してもらうつもりだったんだろう。
裕子先輩に僕が行きますと言って、気が重くなりながら近づいた。
『この前話したけど、手紙を書いてきたんだ。』
『では課長を呼びます。
お待ち下さい。』
『あ…いや、いいんだ。
あのさ、この人の住所がまだ登録されているかだけ調べて欲しい。
亡くなっていたら削除されるだろう?』
そう言って、封筒を差し出し住所の無い宛名を見せた。
『そうとも限りませんが…。』
とりあえず住所の登録の有無がわかれば満足してくれるかな?
そのくらいは調べてもいいだろう。
確かに珍しい苗字だし、同姓同名がいてややこしいこともないだろう。
僕はササッと検索し、登録はあること、刊行物の発送は止められてないことを伝えた。
『そうか。ありがとう。…ありがとう。』
そう言いながら胸元から手のひらに隠すように名刺を取り出し、他の人に見えないように受付カウンターの上を滑らせて僕へ差し出した。
そして小声で言った。
『仕事終わった後、時間あるかな?
職場には秘密で来て欲しい。
君と話したい。
駅前のスバル珈琲で待ってるよ。』
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