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30年前。
大学2年の時にできた初めての彼女なんだ。
合コンで知り合った。
彼女は大学1年生。
彼女にとっても僕が初めての彼氏だった。
何もかも2人とも初めてで楽しかった。
大学は違ったけど、毎週必ず会っていた。
父親が厳しい家の子だったけど、何度か隠れて旅行にも行った。
優しい彼女とは喧嘩もなく穏やかな付き合いだった。
だけど彼女が就職してしばらくしたら、会社で気になる人が出来た、と突然振られたんだ。
彼女の心変わりに怒りが優先した。
環境が変わった途端になんだよ、と。
その時は怒りに任せて別れ、連絡しなかった。
だけど振られた話を友達にしているうちに、僕が酷いことをしていたと気付いたんだ。
就職難の時代、必死に頑張ってそこそこの会社に就職した。
会社に入ってからは怒濤の毎日だった。
一応幹部候補で入社したからね。
普通は休みのはずの土日も出勤になったりして、デートできない。
たまに日曜日が休みになったけど、会うよりも寝たかったし、同期との付き合いを優先したりした。
彼女は文句言わなかった。
ただただ僕の生活に合わせてくれていた。
それが当たり前のようになっていった。
デートじゃなくても週に一度顔だけは見たいと言って、残業を抜け出して会いに行く僕を喫茶店で待っていた。
携帯の無いあの頃、何時に行くかもわからないのに。
行っても20分くらいしかいられなかったのに。
行けない日もあったのに。
申し訳無いと思いながらも、今はそれしか会う方法無いもんね、と気楽に考えていた。
彼女が就活に悩んでいた時も《大学受験を頑張っていい大学に入った人から就職が決まっていくのは当たり前。だったら高校の時にもっと勉強すればよかったじゃん。》と経験者として窘めた。
正論だろ?
だけど悩んでいる彼女をさらに傷つけていたと思う。
もの凄く後悔しはじめて、半年後に思い切って会いたいと連絡した。
会ってくれるという返事だったから、もしかしたらヨリを戻せると期待した。
でも、まだ誰とも付き合っていないと言っていたのに、彼女は近況を報告しあった後すぐに帰ってしまった。
せっかく会ったのに不完全燃焼。
でもまだ諦めきれずに手紙を送った。
きみに対して酷いことをしていたと謝った。
返事は無かった。
そこでもう吹っ切ることにして、住所も電話番号もすべて捨ててしまった。
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