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そこまで話して、また頭を下げた。
『お願いだ。頼まれてくれないか。』
岡村さんの指には指輪が光る。
『…どうして振られたのに必死に探すんですか?
それに結婚してますよね?』
『そうだね、子供も2人いるよ。
妻も子供も大事だよ。
だけど彼女のことはふとした瞬間に頭を過るんだ。
吹っ切ったつもりだったのに、心の隅でずっと後悔していた。
そして最近頻繁に思い出すようになった。
すぐに謝っていたらどうなったかな。
彼女と結婚していたらどんな感じだったかな、とか。
今さらどうこうなりたいわけじゃない。
ただ会えないまま人生が終わるのが嫌になった。
今の家族とは別のところで、どちらも大切なんだ。』
『余命宣告されたから会いたくなった、とかじゃないんですか?』
『ああ…。
あはは。そう言う方が彼女は連絡くれそうだよね。
でも僕は元気。
嘘は書けないね。』
僕は迷った。
引き受けたら大変なことになるかもしれない。
仕事を失うかもしれない。
でも、ダメだと思いながら、岡村さんの話を聞くうちに協力したくなっている。
根拠のない正義感が芽生える
男の浪漫みたいなものに感化されてしまったんだ。
『彼女は』
僕の迷いを拭うように優しく言い出した。
『君が大学で調べた住所を使ったとしても、理由を話せば騒ぎ立てるような人じゃない。
…騒ぎ立てる人になっていたら、僕が全部責任を取るよ。
君を傷つけずに責任を取る方法はたくさんある。』
僕は心を決めた。
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