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午後の業務が始まってすぐにスーツを着た人が入ってきた。
学生課の受付近くにいた僕が対応した。
こちらの大学の卒業生と連絡を取りたいから、住所と電話番号を教えて欲しいと言う。
何言ってんだろ、この人。
僕たち職員が個人情報を教えるわけ無いのに。
中肉中背のサラリーマン風。
白髪交じりの髪は50代半ばくらいだろうか。
ぱっと見た感じは普通にちゃんとした人だ。
ちゃんとしてそうなのに、そんなこともわからないのかな?
僕はイラつきながら、でも丁寧に、個人情報は教えられません、と答えた。
『はは。まあ、そうだよね。』
自嘲気味に下を向いて笑う。
わかってながら言ったの?
なんだかよくわからない。
さらにポツリと話しはじめた。
『ネットで探しても見つからないんだ。
珍しい苗字なのに。
早々に結婚した証拠だと思うけど。
共通の友達もいない。
手がかりはこの大学だけなんだ。』
結婚して苗字が変わるって、女性を探しているのかな。
なんだか怖い。
ますます教えるわけにいかない。
『教えてもらえないのなら、僕の書いた手紙をこちらから送ってもらえないだろうか。』
ええっ…。
それなら出来そうな気がするけど、職歴の浅い僕には引き受けていいのか判断出来ない。
今日、課長は違う場所のキャンパスに行っていていない。
今日は上の者がいないので、引き受けていいのか僕には判断できないと言ったら、時計を見て『じゃあまた来ます。』と言って帰って行った。
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