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1.ただ君を想う
昇降口の軒先から零れ落ちる雫。
それを見上げるふりをしながら涼は注意深く視線を斜向かいの校舎の一角に当てる。
雨が降っているけれど換気のためだろうか。開けられた窓の向こう、事務机に腰掛けなにやら書き物をしている彼の姿が見える。
ほっそりとした白衣の背中がまるで棒でも入っているかのようにぴんと伸びているのを眺め、思わず口許を綻ばせたとき、立岡くんさ、と声が間近に聞こえた。
はっとして声の方を見ると、同じクラスの渚が涼の傍らから涼の視線の先を眺めていた。
「いい加減、告白しちゃえば? ずうっと見てても想いは通じないよ」
「……そんな簡単じゃないんだよ」
「簡単じゃなかったら諦めるの? そんな程度の恋ならさっさと捨てちゃった方がいいかもね」
冷淡に言い捨て渚は雨の中へすうっと歩を踏み出す。
相変わらず傘を持っていない。
というか、彼女が傘を差しているところを涼は見たことがない。
もともと渚とは同じクラスという程度の関係しかなかった。渚はよく笑うし可愛いし、男子に人気はあったけれど、男子よりも女子とつるみたがるタイプだったし、涼もそんなに女子と仲良くできる方でもない。
接点なんてないはずだったのだが、ある大雨の日から涼は渚と会話をするようになった。
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