眠る女

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 何人の男と寝たのかなんて、数えていない。ただ、身体が随分疲れ切っていたので、今日はいつもより客が多かったのかもしれないな、と、ぼんやり思った。  セックスは、好きではなかった。  体内に他人の体の一部が侵入いてくるのは、正直気持ちが悪い。私はなにをやっているんだろう、という気にもなる。  風呂場で軽く湯を浴び、私は紅子の部屋に向かう。  真っ暗な部屋の中、紅子は畳の真ん中に布団を敷いて、すやすやと眠っていた。  私は廊下から差す光に浮かび上がる紅子の白い顔を、しばらく眺めていた。  最後に目覚めいている彼女と会ったのはいつだろうか、と、そんなことを思いながら。  廊下を行く女たちの足音でふと我に返り、紅子の隣に敷きっぱなしにしていた布団に身を横たえる。  泥のように疲れていたけれど、なぜだか意識は冴えていた。  今、紅子を起こして、性交を迫ったらどうなるだろうか。そんなことを、ぐるぐると考える。  紅子と私は、一度しか寝ていない。あの炭焼小屋で、たった一度の性交をした。そして、その次の晩に村を出た。  誘ったのは、私だ。  いつでも手の届く位置にいるのに、口づけは何度も繰り返しているのに、それ以上触れられない身体がもどかしくて。  伸ばした手で、紅子の着た切り雀の古ぼけた着物の衿を開いた。  紅子は抵抗しなかった。  動揺した素振りも見せず、鏡合わせみたいに同じ動作で、私の衿を開いてきた。  めまいがした。どちらがどちらを抱こうとしているのか分からなくなった。紅子に触れるその時までは、紅子を抱きたいと、飢えるみたいに思っていたのに。  紅子。  名前を呼べば、紅子も私の名前を呼んだ。  銀子。  その声も、全く同じ響き方をした。  慣れていたはずだ。だって、生まれてきたその瞬間から、自分と同じ声と姿をしたもう一人がすぐ隣にいたんだから。  なのにその時ばかりは、なぜだかくらくらと、騙し絵でも見せられている気分になった。  紅子、紅子、紅子、  自分とおんなじ声と姿をした、もうひとりの女の名前を、すがるように呼んだ。  銀子、銀子、銀子、  紅子も同じように私を呼んだ。  できないかもしれない、と思った。だって、あまりにもめまいがひどすぎて。  けれど、その心配は杞憂に終わった。  紅子は私の着物を脱がせると、自分もするりと裸になり、私に身を預けてきた。  触れた身体は、私と同じだった。何もかもが、同じところにあった。  それを確かめるみたいに、私と紅子はお互いの身体に手を這わせた。それは、たまらない快感だった。自分の身体を悦ばせるのと同じことだったからだ。  
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