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出会い
もう限界だ。耐えられない。
僕は屋上から飛び降りようと一歩踏み出した。
「そんなところで、何をしてるの?」
可愛らしい声に振り向くと
黒髪を腰まで伸ばした美少女が微笑みを
浮かべていた。
誰だったろう。
確か、隣のクラスの星野さんだ。
「自殺すると、地獄に堕ちるらしいよ」
淡々と言い、彼女はウィンナーを口に運ぶ。
僕の考えを見透かされたようでドキッとした。
「べ、別に死のうとしてたんじゃ……」
「じゃあ何をしようとしてたのかな?
鳥みたいに空を飛ぶつもり?」
まるでなんでもないことのように軽い口調で言う。
そしてブロッコリーを食べながら
こっちを見る。
綺麗な瞳に僕は言葉に詰まり、俯いた。
「わたしね、余命三ヶ月なの」
「は?」
僕は衝撃の発言に固まる。
今なんて?
余命三ヶ月?
「卒業するまで生きていられないんだぁ」
のほほんと笑う星野さん。
笑ってる場合か!
これは重大機密事項ではなかろうか。
「え、それは、僕に言ってもいい話?」
僕は戸惑いながら言う。
「クラスの友達には言ってないんだけどね。
春川くんには話したくなったの」
な、なんで僕に……。
星野さんといえばいつも明るくて僕のクラスでも
話題に上がるほどの人気者だ。
そんな彼女の影の部分があるなんて驚いた。
「わたしね……やり残したことがあるの」
星野さんは明るく言う。
「やり残したこと?」
星野さんは僕の言葉に頷く。
そして、クルリと振り向いた。
「わたしがやり残したことは
デートすること。わたし、
生まれてから一度も彼氏ができたことないんだ」
星野さんのような美人が、
今まで一度も付き合ったことがない……?
この前もクラスで一番の人気者に
告白されていたというのに。
「星野さんはモテるだろ。告白されたこと
だってあるんじゃないの?」
そう聞くと彼女は苦笑した。
「あるけど、そのときのわたしは
恋愛に興味がなかったんだよね。でも、最近わたしも誰かを愛することを知りたいって思ったの」
彼女は空を見上げたまま言う。
その瞳は淡い期待に満ちているように見えた。
「……そう」
何と言えばいいか分からず、短く言う。
「そして、死ぬ時には星空の下で
彼氏とダンスパーティを開くの。
ロマンチックでしょ?」
彼女はえへへと笑う。
そんな楽しそうに言われても。
僕は話を逸らそうと口を開いた。
「星、好きなの?」
「うん! 星はわたしには無い輝きを持ってるから」
一瞬だけ瞳が仄暗く揺らめくが、
僕は気付かないフリをした。
誰だって触れられたくない部分はあるだろう。
「あ、そうだ!春川くん、死ぬくらいなら
わたしと付き合ってよ」
???
付き合って……?
「それ、僕に言ってる?」
「うん。春川くんしかいないじゃん」
星野さんはクスクス笑う。
「わたしの最期の願いに付き合ってほしい」
悲しげな顔をする星野さんにノーとは言えなかった。
「……わかったよ」
「やったー!!」
星野さんが笑う。
「そうだ、とりあえずLINE交換しよ」
「えっ、わ、分かった」
そっか。
仮にも彼氏なんだから
LINE交換はするよな。
僕はモタつきながら、星野さんを友達追加した。
「これからよろしくね、宙人」
にっこり笑う星野さんに僕は笑い返す。
「うん、よろしく。星野さ……きらり」
僕はきらりと握手を交わした。
これが、僕たちの出会いだった。
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