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いつからだっただろう、気が付いたら男の人にしか興味が持てなかったし、男性しか好きにならなかった。
それでも、同性愛者というのは隠している。
世間の理解が増えてきているとはいえ、やっぱりまだまだ生き辛かった。
「桃矢、今度の合コン来てくれよ」
大学時代、同級生に声を掛けられては、断りながらも幾つかには顔を出した。
出席したのは、憧れている先輩も合コンに出席している時だけ。
「麻生くん、この後二人で何処かに行かない?」
そんな事を言われても、当然そんな気は全く無くて、
「いえ、行かないです」
そう答えると、後で同級生に酷く文句を言われた。
何がいけないんだ、俺は何度不満に思った事だろう。
ムスッとした顔をしても、同級生には通じなくて
「気を利かせてたまには女と遊ばないと、桃矢がいるってだけで女の子が集まらねぇだろ」
そんな風に言われて、更に眉間に皺が寄る。
じゃあ、そもそも俺を誘わなければいいだろう、思ったけど言わなかった。
こんな形でも、憧れている人と同じ場所で、同じ時を過ごせるのは嬉しかったから。
それに、揉め事は面倒臭い。
早番で、まだ日が明るいうちに家に帰る。
一人暮らしのアパートには夕方五時には帰宅出来、買ってきた弁当をキッチンに置き、ビールを冷蔵庫に入れた。
peypeyは夜勤明けと言っていた、まだ寝ているかも知れない、メールをするのはまだ我慢する。
アプリで知り合った。
時任の話しを聞いて貰いたいと思い、相談に乗って貰えたらと思い、スマホの中だけの友達を探したのは、三ヶ月程前。
男性を好きで相談したいなんて、周りの人には話せる筈は無い。
── 男性を好きな男です。好きな人がいます、相談に乗って頂ける方、探しています ──
そんな、とんでもない自己紹介だった。
ハンドルネームは『こたろう』にした、実家で飼っている愛犬、チワワの名前。
簡単だし珍しくもない、無難だろう。
アプリに登録すると直ぐに、色んなメールが届いた。
でも、『会って話さない?』とか、『そんな奴やめて俺と遊ばない? 』とか、そんな結局出会い系みたいなメールが多くて、相談できる相手(メールでだけの)が欲しい俺は嫌気が差し、退会しようと思っていたその夜、 peypey(ペイペイ)からのメールを受信した。
『俺で良ければ、話しを聞かせてよ』
その一文だけだったのが、余計に目を惹いた。
『はじめまして、こたろう、と言います』
『こんばんは、 peypeyです』
それが、peypeyとのメールの始まり。
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