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「桔平、氷室さんの連絡先を知っているのか?」
桃矢が不安そうに、それでも少し怒っているような感じで俺に訊く。
ヤキモチか、ヤキモチ焼いてんのか?
めっちゃ嬉しいんだけど〜、思わず顔がニヤけてしまう。
でも桃矢を不安にさせたくないし、ちゃんと正直に答えよう。
「ああ、桃矢が好きだって、どうしていいか分かんなくて、よく相談に乗ってもらってたから」
「そ、そうか…… 」
桃矢が好きで堪らなくて、みたいな事ゆえだと話すと、顔を赤らめて微笑む桃矢。
可愛いっ!!
ああ、今夜はもう寝かさねぇからなっ!
激しい夜がこの日も訪れた。
大満足、俺。
✴︎✴︎✴︎
「電話に出れなくて悪かった」
氷室さんから折り返し電話が来たのは翌日。
「いえ、わざわざ折り返し頂いてすみません」
桃矢のエグゼクティブへの異動の話しの経緯を聞きたいと言うと、氷室さんから驚く返答。
「ああ、そのことなんだがな、俺も桔平に連絡しようと思ってたんだ」
そんな風に言われ、以前に連れて行って貰った氷室さん行きつけのお洒落なバーで待ち合わせ。
いつ来ても良い店だと思う、まだ桃矢と来れてない、近いうちに来ようと胸に思う。
「ああ、桔平、遅くなってごめん、待ったか?」
「いえ、大丈夫です」
もう、三杯カクテルを頂いていたが全部氷室さんの会計、何ならまだ二、三杯呑みたかったと思って微笑んだ。
「あの、桃矢の異動のことなんですが…… 」
氷室さんが座るなり、本題に入って失礼だとは思ったけど、俺は納得出来ない思いが大半だから仕方ない。
「うん、麻生君は良い、エグゼクティブに来るべきなんだ」
ま、そりゃ、分かる…… 氷室さんの差し金だとしても個人的な感情じゃなかったんだと思って、少しでも変な風に思った自分を反省した。
「大変なことが起きた」
「大変なこと? 」
眉間に皺を寄せ、カウンターに置かれたウォッカのストレートを一気に流し込む氷室さん。
え?
一杯目からウォッカ?
しかもストレートで?
何だか嫌な予感しかしない。
「鈴ちゃんな…… 」
鈴ちゃん?
誰? それ。
俺が真顔で氷室さんを微動だにせず見入ると、鈴ちゃんが誰なのか分からないと察する氷室さん、流石だ。
「大学生のバイトのベルボーイ、鈴之介君だ」
知らねぇよ。
ま、てか、あの大学生だよな、氷室さんが追って行った。
「彼は、麻生君が好きだ、きっと」
(!!!)
なんだって!?
俺の顔には『たまげました』と書かれていた筈だ、きっと。
「な、何でまたそんなこと、分かるんすか?」
訊いてる自分が、酷く狼狽えているのが分かる。
「好きな人のことは、誰よりも分かるだろう? 」
いや、好きな人だからこそ、そういうのって分からなかったりするんじゃないかと思ったけど、溜め息混じりに言っている氷室さんには到底言えなかった。
「鈴ちゃんは四月から大学四年生で、まだハイルミネでバイトを続けるらしい、ベルボーイならフロントと繋がりが多いだろう、そんなの、とても駄目だ」
やっぱ、個人的感情だったのかと分かって、目が冷ややかになる。
「しかし、麻生君をエグゼクティブに欲しいのは確かだ、鈴ちゃんが良いキッカケになってくれた」
桃矢が評価されての事だというのが分かり、かなりホッとする。
それでも、桃矢を狙う奴を側に置いておける訳がない、氷室さんには感謝した。
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