アイドルに推された私

クリスマス コンサート

「千春、こっち、こっち」唯を呼ぶ千春。
『RAIN』のクリスマスコンサート会場に
　着いた唯。
「唯、その荷物何？」と千春が聞いた。
「あ、これは仕事道具」と答える唯。

千春に連れられ会場内に入る唯。

「う……」と唯が呟く。
「唯、どうしたの？」と千春が言った。
「千春、席ってまさか……」

「うん、ついてるよ。今日の席はなんと、
　最前列のど真ん中。
　明日は少し後になるけど」と喜ぶ千春。

　それを聞いた唯、
　「よりによって、何で？
　　あの時と一緒じゃない……」
　と溜息をついた唯。

「唯……はい、これ」
　千春は唯にメンバーの名前が
　大きくついてるうちわを渡した。

「『つばさ』、いささかこれはまずいかな」
　と唯が呟く。

「どうしたの？　唯はだれのファンでも
　ないんだから、どれでもいいでしょ？」
　と千春が言った。

やがて、会場が暗闇に包まれた。
会場内が熱気に包まれたと同時に
頭上のライトが回転すると、会場内に
ジグザクに光を放つ……。

「キャ～キャ～」凄い歓声があがり、
隣に立つ千春もうちわを振り興奮している。

ピカッとステージ上に放たれる光……。

『RAIN』五人のシルエットが
　浮かび上がる。
キャ～キャ～凄い歓声が背後から音の波と
なって押し寄せる。
唯は、数年前のイベントのことを
思い出した。

そして、大音量と共に
コンサートが始まった。
千春は大興奮、うちわを振りまくる。
隣に立つ唯は、千春の姿を凝視する。

ステージの上からファンサービスをする
RAINメンバー五人。

『つばさ』のうちわを持つ唯の近くに
歌いながら翼がやってきた。
唯の顔を見ると、片目を閉じて
ウインクする。

バキューンと♡を撃ち抜くと、
仕草をする翼に唯の周りは大興奮。

歌う翼の元に悠がやってくると、
翼の肩に肘を乗せ、ポーズを決める。
悠もバキューンと♡を撃ち抜いた。

その時、悠と唯は目が合った。
「う……」と唯が横に顔向け目を逸らす。
悠は歌いながら反対方向へ歩いて行った。

「う～ん心臓に悪い……」と呟く唯。
唯の気持ちとは裏腹にコンサートは、
大盛り上がりで、『RAIN』は
ファンの人々に『幸せ』という
最高のクリスマスプレゼントを贈った。

コンサートが終了すると唯は、
コンサートホール内の更衣室に駆け込んだ。
大きな、トートバックの中から、
襟なしトレーナーと黒いスラックスを
取り出す。足元はヒールからスニーカーへ
履き替える。そして、仕上げは、
アフロもどきのウイッグ。

鏡で自分の容姿を確認した唯。
「よし、キヌコさん　完璧」
と言うと更衣室から出て行った。

千春の元に駆け寄る、キヌコ仕様の唯。
「千春、お疲れ様、じゃあ私仕事に行くから」　
と言うと唯は、仕事に向かった。

「唯も頑張るよね～あんな格好して」
と言うと千春は頷いたのであった。