付箋つきのメモ用紙

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付箋つきのメモ用紙

今日は月曜日。午後三時からは 契約者 東田様こと悠のマンションでの 家事作業。 唯は、いつものようにユニフォームの 薄桃色の襟なしトレーナーに 首元にバンダナを巻き、 そして、最後の仕上げのウイッグを つけると、『キヌコさん 六十三歳』への 変装が完成する。 「これでよし!」と言うと 首から身分証明書をぶらさげ、 大きなトートバックを肩にかけると 自宅アパートを出て行った。 ウイーン……。自動ドアが開くと、 悠のマンションのフロントにいる コンシェルジュ小林が唯に声をかける。 「キヌコさん、こんにちは。  今日もお元気ですね……」と言うと 唯に悠の部屋のカードキーを渡した。 EVに乗ると彼女は悠の部屋に向かう。 カチャ、と玄関のドアを開け、 いつも通り、リビングのドアを開ける。 ダイニングテーブルには連絡ノートが 置かれていた。 唯は、連絡ノートを手に取り ページを開くと、今日の依頼内容を 確認する。 キヌコ様 今日は、冷蔵庫にあるもので 適当に食事を作っておいてください。 (和食) あと、いつものだし巻き卵。 それから、テーブルの上に置いた ものの確認をお願いします。 東田 「テーブルの上に置いたものの確認?」  と唯がテーブルの上に視線を移した。 「ん? これは何?」 唯テーブルの上に置かれた『もの』を 手に取った。 「付箋つきメモ帳のこと?」と呟く唯。 テーブルの上に置かれた正方形の 厚さ10センチ程の付箋つきのメモ帳、 そして、そのメモ帳の上にはメッセージが 書いてあった。 キヌコさんへ 俺等、互いに顔がわかってるって内容の メッセージを連絡ノートに書くわけ いかないじゃん。 だから、作業以外のことはこのメモ用紙に 書いておこうと思うんだ。 だから、キヌコさんもこのメモ用紙に コメント書いたら、連絡ノートの ページに貼り付けておいて、 互いに読んだら、処分する。 物凄く面倒くさいけど、 宜しくね。 東田 悠 唯の所属する会社 『ニコニコ家事代行サービス』では、 契約者とスタッフが顔を合わせず 作業を行うシステムのために、 契約者 東田(悠)と スタッフのキヌコさん(唯)が 互いのことを知ることはない。 唯は悠が書いたメモを見て、 「ふふふ、面倒くさい人だ」 と言うとメモ用紙を一枚めくり取り 文字を書き込むとノートに張り付けた。 夜に帰宅した悠、 ノートを開くと唯が書いたメモ用紙。 そこには、 面倒くさいですけど、 仕方ないですね。 でも、作業以外のことって 何かありますかね? と書いてあった。 「あの人、俺のこと本当に契約者としか  見てないんだな。  俺、一応、有名人なんだけどな。  まぁ、その方がいいか、  面倒なことにならなくて」 と言うと、悠は唯の作った 和食を食べ始めるのだった。
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