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その夜、真っ暗な部屋で眠っていた彼女が叫び声をあげた。
彼女がこの部屋で一人暮らしを始めて一年、とうとう見られてしまったか。
と観念して幽霊が最大限青白く光って見せると、今度は「うわあああああああ!」と男の叫び声が響いた。覆面をした黒づくめの男が、暗闇の中をそこら中にぶつかりながら逃げて行った。
「なに?今の」
彼女は男が出て行って安堵した様子。いやこっちこっち。わたしに驚きなさいよ。
「悪者が侵入したのね。あなた帰って来た時鍵掛け忘れてたわよ」
「うそ!だったらその時に教えてよお!ああ怖かった」
「わたしの声が聞こえる人間はあんまりいないもの。言ったけどあなた聞こえなかったじゃない」
怖がっていない人をわざわざ怖がらせる必要はない。相手が普通に対応してくれるならこっちも合わせよう。
彼女は反射的に照明をつけようとして、伸ばした手を止めた。
「明るくしたら、消えちゃうの?」
「見えにくくなるだけでいなくなるわけじゃないわ」
窓から差し込む仄かな街明かりを頼りに玄関の鍵を閉め、彼女は水を飲んでベッドに戻ってきた。
「驚かないのね」わたしはこの話題をどうしても避けて進めなかった。
「ここ出るって噂は聞いてたから」
「聞いてたら驚かないの?」
「生きてる人間の方が怖いって実感したところだからかなあ。あとゴキブリ!」
「わたしを見ると強盗もゴキブリも逃げていくのに」
「あ、こないだゴキブリが窓から逃げて行ったのもあなたがいたからなの?」
「ゴキブリはわたしに気付いたというのにあなたときたら。今までの住人だって見えはしなくても気配ぐらい感じてくれたわ」
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